「おれを愛せ」
「…、は?」
「…おれを愛せ」
ついにとち狂ったか…。
急に呼び出されたかと思えば、こんな内容。俺は一体どうすればいいんだ。反応に困る。
はいそうですかと簡単に愛せるはずはないし、何より相手は男、そして船長だ。
「えーと…パワハラで訴えてもいいですか」
「へェ。誰に訴えるってんだ?」
「そうだなあ、ペンギンとかキャスケットとか…キャプテン?」
適当に接点の多い船員の名前を羅列しただけだったんだが、それは間違いだったらしい。
キャプテンの瞳がギラリと光って刀を持ちだしている。大変だみんな逃げてくれ
「なにしてるんですか」
「無罪にしてくる」
「人はそれを脅迫というんです。やめてください」
「おれとお前の愛を阻むやつは全員殺してやる」
「そんな理由で船員をバラバラにしようとしないでください」
しばらくとばっちり食らうかもしれない…ごめんみんな…。
とりあえず刀は奪っておいた。こんなことで封じれるわけではないけれどそれでもマシだろう。
止める間もなく突然飛び出して船員がバラバラにされちゃいましたなんて嫌過ぎる。
期待のルーキー率いるハートの海賊団解散の理由が痴情のもつれとか最悪だろう。いや痴情かどうかは置いておき。
「なにしやがる」
「こんなもの持たないでください、危ないでしょう?」
うわっ…
何がどうキャプテンの琴線に触れたのかはわからないがなんか喜ばれてるどうしよう気持ち悪い…。
「…」
「…な、なんですか」
「愛してるぜ」
「そ、…そう、です…か」
本当にどうしたんだこの人は。なにか変なものでも食べたのか? 怪しい薬でも飲んだとか?
あ、それはありそうだ。珍しい薬を飲んだはいいけど失敗作で効果がこんなんだったっていう夢オチなら一番いいんだが。
夢じゃ…ないんだろうな…試しに掌に爪をたてても痛いし、リアルに気持ち悪いし。
「お前は? おれのこと愛してるか?」
「え…いや…」
尊敬はしてたがそれすらも崩れかけている今、何をどう頑張っても愛どころか好きの欠片もない気がする…。
俺逃げてもいいだろうか。でも逃げたら…下手をしたら惨劇が起きてしまうわけで…
脳裏にハートの海賊団電撃解散のシュミレートが一瞬で駆け巡る。ああ、一週間も経たないうちに再起不能になってしまいそうだ。
そして俺は…俺は…逃げる間もなく監禁されて調教されてキャプテンの思うがま…的…な…ああああああああああ!!!!!
だ、駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ…ッ!
「あの…その。お、俺…」
そんな期待を込めた輝いた目で見ないでくれ怖いから!
「あ、愛して…は…ない、かな…ははは…」
「――そうか」
「うっ」
ギラギラとしたその瞳はまるで餌を狙う猛獣のようで、今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
が今逃げ出したら全船員の命すら危ういわけで、でも俺一人の犠牲で済むのならと踏ん切れるほど俺は犠牲的な人間ではないわけで…
「あ、あの…キャプテ、」
「ふっ…構わねェさ」
殺気だった瞳をトレードマークの帽子で隠したキャプテンがゆっくりと近づいてくる。
ちょ…え? これは何フラグ? 俺の運命は如何に!? 命と貞操だけは勘弁してくれよ!
キャプテンが一歩近づく度俺も後ずさっていたが、どんと勢い良く壁にぶち当たって、ああ、万事休す!
「無理にでもおれを愛させりゃいいんだからな」
「ひ…」
「後ろは壁だぜ…逃げられねェよ」
どんッとキャプテンが顔の横に両手をついて、今度こそ完全に退路を断たれてしまった。
上から覗き込むように捕えられて、その顔だって近づいてきている。俺の貞操今日で終了のお知らせかもしれない。
「なァ、」
「あ、う…」
「好きだ…愛してる…」
どんどんと顔が近づいて、もうすぐで唇がくっついてしまうのではないかと思う距離になった。
キャプテンは瞳を伏せて――。
「愛してるんだ、…お前が欲しくて、たまらない」
「お…」


















「お、おおおおお俺そういう趣味ないんで! すみません失礼します!!!!!」
刀の柄で思い切り鳩尾を突いて怯んだ隙に逃げた。


































ローは愛されて大事にされるタイプじゃなくて、
愛しすぎて大事なものを壊しちゃうタイプ。

Title by 三人目