ふわふわと頭の中が揺れている。俺は今起きているのか寝ているのか、それとも死んでいるのか? なにひとつわからないような暗いところで瞳を閉じて転がっていた。 「……」 近くで見知った声が聞こえた。先程まで聴いていた声だ。あと俺が意識を手放した元凶。 「どうすれば人は死ぬ? どうすれば人は生きる?」 まだそのことを考えてるのか、馬鹿。というか俺に訊くなよ。もっと偉い奴にでも訊け、センゴクとか。 人生経験の豊富な相手とか、哲学者とかに訊けばそれ相応の返答は返ってくるだろうに。 「どうすれば…人は独占できる…?」 なにを言っているんだこいつはと思ったところで、ふと俺は生きていて覚醒しだしていることを自覚した。 俺は今寝ぼけてるんだ。起きかけた状態で眠っているに違いない。だからこれは夢かもしれない。 嫌だなあ、どうして夢の中でまでこいつの質問を聞いてないといけないんだ。 「…なぁ…金を積めばいいか…、それとも地位か…、名声か…、?」 段々と声が小さくなって、更に小さい嗚咽が聞こえたかと思うとぽつりと顔に何か液体が落ちてきた。 …まさかとは思うんだがお前、泣いてるのか? 重い眼を開けば、顔を歪めた長身の男が縮こまって俺の顔を覗きこんでいた。 「…ドフラミンゴ?」 「ぁ、」 いつもこいつの顔を覆っているサングラスはない。だからいつもより表情が読みやすかった。 「なんでお前、泣いて」 「…ッ、なんでもな――!」 「いわけがないだろ。ああこら、擦るな」 子供のように泣き続けるドフラミンゴの顔を覗きこめば瞳に俺が映り込む。 拭うものがなかったので俺の服で優しめに涙を拭ってやった。俺は泣いてる奴には弱いんだよ。 「いい歳したおっさんが泣きじゃくってるんじゃねぇよ、馬鹿」 「…お、おまえ…起きてた、のか…」 「半分な。そしたら泣きだすから、驚いて起きちまったよ」 「聞いてたの…か」 聞いてた? ああ、金がどうとか言っていたあれか。まあ聞いていたな。盗み聞きになるんだろうかあれは。 いや勝手に喋り出したんだから俺の責任ではないはずだ。よし俺の所為じゃない。 「まあ、大体は」 「なら…なら、おれはどうすればいい」 「は?」 どうするってなんだ。とりあえずお前は泣きやめばいいと思うんだが。泣くのはやめてくれ。 誰かが泣いていると構いたくなってくるんだ。お前相手に優しく構ってやったって俺なにも得がないんだが。 別に常に損得で親切心を動かしているわけじゃあ、ないけれど。 「金を積めばいいのか…地位を与えればいいのか…名声を与えればいいのか…」 「…さっきから気になってたんだが、それって何の話なんだ?」 とりあえず俺に取引を持ちかけているんであろうことはわかるんだが。 「…、…どうすれば、おれのものになる…?」 「部下になれってことか? 生憎俺は自由な海賊だからそれは少し難しい相談に… ドフラミンゴ?」 「ちがう…そうじゃない」 ドフラミンゴがぼすりとベッドへ埋まった。位置的に俺の太腿の上あたりだ。 重いだろと声をかけようとドフラミンゴの頭へ手を伸ばしたが触るなと手を払われた。 「おれのものだ。おれの」 わけがわからないし、第一ものってなんだ。人を物扱いか。相変わらず非道な男だ。 「――なァ、どうすれば人は死ぬと思う」 「は…?」 どうして死ぬのかと尋ねたら今度はどうすれば死ぬか。どうしたんだ本当に。理解しがたいぜ。 というか、どうすればもなにも。お前がいつもするようにちょいちょいと指を動かせば勝手に死ぬだろうに。 …ああ、それとも俺を殺したいということか。今度は俺も抵抗するぞ。 「…、殺せば死ぬんじゃないか」 「いいや駄目だ。それじゃおれが満足するように殺せない」 「はあ? お前の満足なんて知るかよ」 布団に埋まっていたドフラミンゴが顔をあげて、今まで見せたことのないほどの高速でサングラスをかけた。 素顔を出すのがそんなに嫌ならば最初から外さなければ良いだろうに。 「フ…フフ…フッフッフ! そうだな…知らねェよな」 のそりと起き上ってドフラミンゴはゆっくりと俺から離れた。そして、 「…俺を操ってなにをしようってんだ?」 「フフフ! 手に入らないのなら海賊らしく奪ってしまえばいいんだ」 奪う、何を。俺を? 動こうとしてもがっちりとドフラミンゴの能力で縛られた身体は動けない。 逃げることはできない。抵抗もできない。このままここで死ぬのか、俺は。 そうだとするならばなんと呆気ない人生だろうか。ドフラミンゴという気分屋に殺されて死にました、だなんて。 「なァ、そうだろう」 「…どうせ俺に拒否権はないんだろ」 「フッフッフ! 当たり前だろ、“奪う”んだから」 さて、どうするか。今俺に出来ることといえば口を動かすことくらいだ。さてこの男が話術でどうにかなるだろうか。 シュミレートをするまでもなく答えはノーだ。機嫌が良くなればまた違うかもしれないけど。 「一応聞いておくが、俺を奪った後はどうする気だ?」 死体は放置してこのまま帰りますなんて言われたら俺は海に飛び込んだ方がマシなわけなんだが。 「決まってる」 ドフラミンゴの指がゆらゆらと動いて、俺の身体も同じようにゆらゆらと動きだす。 抵抗は無駄だと理解しているからこそ他人事のように黙って見つめた。 近づいて近づいて、手を伸ばせば届く距離。ぴたりとどちらも動きが止まって視線が交わった。 「 」 「お前は一生、おれのものだ」 一応夢主はベッドで寝てた 暗いのは電気ついてないから