「んー? なんだこれ」 それは大きな果実だった。青のような紫のような色をしていて、斑な模様がある。 例えていうなれば葡萄の実を全部くっつけたような、球体のくっついたような形だ。 「なあエースー、これ食えるかなー?」 「んあー?」 その不思議な果実をエースに見せてみるけど、エースは果物も区別できるのだろうかと不安になった。 マルコに聞いた方が確実か…? いや、エースも野性児だから茸だけじゃなくて変わった果実は知ってるかも。 これ結構失礼なこと考えてるよなあと思いながらもエースは野性児に変わりないから訂正はしない。 「知らねェな、食ってみれば?」 「あー…まあ解毒薬とかはあるし…いいか」 もし毒性があったとしても医療器具はいつだって俺のお供だ。薄れゆく意識でも薬くらい飲めるだろう。 うん、美味かったら当たりってことで。つかこれどこから落ちた実なんだ? 周囲に似たような実はないが。 まあいいかと不思議な形の果実を一口、口に含んだ。…う…。 「ま、まっずぅ…!! なんだこれ! 腐ってんの?」 「……お、おい…待てよ、それって……」 「うげー…外れだ。ん、どうしたエースそんな顔して」 エースが何故かこの世の終わりのような顔をしていた。すげえエースが驚いてる。珍しいこともあるもんだ。 つかこれ捨てていいかな…不味いし。いや、珍しいから採っておくか? うーん、どうしよ。 「お、おい! 吐きだせ! 今すぐに!!!!!」 「は? 無理だよもう食っちまったし…え、なんか毒のあるやつだった?」 「毒よりもタチが悪ィ!!」 「マジで!?」 ペッペッと吐きだそうとして見るが無理だった。えーと何か薬あったかな。多分下剤じゃ駄目だよな。吸収しちゃうし。 うーん流石に嘔吐作用のある薬はないか。仕方ない、喉に手突っ込んで… 「う、ぇ…っ」 「早く出せ早く!」 「まて、まだ出な…おええッ!」 どぼどぼと今朝食べたものが出てくる。ちょっと消化できてないのもあった。俺の胃消化遅いな。 最後にげほっと喉に突っかかってるものも出して、気持ち悪い口の中を水で洗い流す。 ああ、吐くのなんて久しぶりだ…しかも自主嘔吐とかどんだけだ。いや人体のためだ仕方ない。 「うう…喉が気持ち悪い」 「で、出たか? 全部出たかッ!?」 「出たよ食ったモンは…。で? これ一体どんな成分があるわけ? 症状は?」 医者として毒性のあるものは知っておかないと、船員が誤って食べた場合対処できないしな。 まあ誤って食ったのは俺なんだけど…。仕方ない、見たこともない実だったから。 「…その、なんか変なことないか? 変身しそうとか…何か出そうとか…」 「はあ? エース何言ってんの?」 「いいからッ! 早く! 考えてみろ!!!!!!」 「う、うん…」 なんだ? 今日のエースは変だ…変身って何だよ変身って。えーいって考えればいいわけか? 変身変身俺変身する変身変身…駄目だこりゃ。つか訳わからん変身とか。なんで急に? うーん…わからん。何か出そうってのも訳わかんねーし。うーん何か出る何か出る…うおっ!? 「み…水?」 ばっしゃあと大きな音をたてて水が俺の手から噴き出した。な、なんだってー!? つーかあれ? エースは!? 周囲を見渡してもいない! ま、まさか…この水に…! 「エ、エース…? エース!?」 「う…」 「エースううううう!」 エースは水浸しでさっきの場所から3mほど先に倒れていた。吹っ飛んだのか? 火になって逃げればいいのに…あ、駄目か火じゃ消える。ん、そういやエースの火って水で消えるのかな。 消えたとして…でも火はエースの体の一部だよな…ということは…。い、いや! 考えるのをやめよう! 「だ、大丈夫か? なんで水が俺から…」 「やっぱ…吐きだしても無駄だったか…」 「お…おい?」 「あれは…悪魔の実だ…」 「え…?」 あ…悪魔の実? そうか、だからエースあんなに焦って…ん? 悪魔の実? 「あ、悪魔の実ぃいいいいいいいいッ!?」 「はあ…しかも水かよ…おれと相性悪ィ」 「ちょ! ちょっと待て! 悪魔の実ってのはこんなとこに落ちてるモンなのか!?」 だってここ普通の森だぞ! 暇だから探検してただけだし…そもそも街も近い! こんなところに落ちてたら子供とか動物とかが食っちまうだろ…! 危ないなもう! 誰がこんなところに! 「あー待て待て…おれは今誰かさんが濡らしてくれた所為でだりィんだ」 「え、あ、わ、悪い…」 冷静さを失って無意識に水浸しのエースを揺すっていたらしい。青い顔をしたエースが手の中にいた。 「ふう…あー…悪魔の実ってのはな…どこにだってあるもんだぜ」 「そんな…」 ああ…いや、待てよ。でも何も知らない街の子供とかが食べてしまうよりは、はるかに良いんじゃないか? おれは船医とはいえ海賊だし、所属はあの白ひげ海賊団だ。ちっとやそこらじゃ負けない。 …うん、そう考えればマシに思えてくるぞ…ああ、でも泳げなくなるのか…やだなあ…エースも助けられないし。 「…子供とかが食うよりはマシか…」 「その考え、お前らしいよ」 「能力者にはなりたくなかったんだがなァ…」 しかも水となるとエースとの相性はすげェ悪いし…やだなあ、どうせならマルコみたいなかっこよく変身したかった。 そうでなくてもパラミシアとか…あ、でもロギアってことは痛くない! 物理効かない! やったね! はははっ、はは…は… 「…はは…俺、もう泳げないんだ…」 「…」 「海が大好きだったんだけどなァ」 海が大好きだった。ずっと海と一緒にいたくて、海賊を目指した。でも俺は弱かったから、医者になった。 それで、色々な海賊を点々として…白ひげに入って…俺は一生、ずっとずっと、海と一緒にいるんだって… 俺は能力者じゃなかったから、海の中に入るのが大好きで…マルコとかに呆れられて…エースには羨ましがられて。 …でも、 「もう…海には入れない…」 「…あ…だ、大丈夫だ! 海には入れねェが、海を見ることは出来る! それにっ」 「いい。わかってる…わかってるから」 「……悪ィ…おれが、もう少しはやく気付けば…」 しまった、俺の所為でエースの顔が暗くなっちまった。駄目だぞエースは笑顔じゃないと! 「いいんだ! 俺なんか楽しくなってきたし! ほらエースも笑ってくれよ」 「…」 「も、もう船に戻ろうぜ! そろそろ帰らないとマルコに怒られ…エース?」 エースは俯いたまま微動だにしない。当然、返事もなかった。…俺の所為か。 今謝っても逆効果だろう。さっきの水の勢いで飛んだのであろうエースの帽子を拾って、エースに被せた。 「…帰ろう、エース」 「…ん…」 はやく帰ってみんなに悪魔の実食っちゃったってこと、笑い話にしよう。きっとみんな笑ってくれる。 お前海大好きだったのになァって笑って、頭撫でてくれるさ。マルコは呆れるかもな、変なモン食うなって言っただろって。 で、それに怒る俺を見て、みんなして笑って、エースも隣で笑ってくれればいい。そうすれば俺は何もかも嬉しくなるから。
ありきたりな実。 いつか絶対被りそうだけどもういいやって思ってる