「けっこうでかいなあ」
その森は街の奥にあった。それは思っていたよりも大きくて、わくわくする。
「、はやく来いよ!」
声をかければはすぐにこっちに駆けよってきた。息切れしていて辛そうだ。
仮にも海賊なんだからもっと体力があっても良いだろうに、はいつまでも体力がない。
「はぁっ…エース、お、おま、はやい…!」
「が遅いんだって」
あれでも遅く走った方だ。もっとはやく走ろうと思えば走れるが、がおれを見失うのがいやだったから。
次からはもっと遅く走らないと駄目か。いや、いっそ二人でゆっくりと歩いて街でも見て回ろうか。
…森の探検ですら誘うのに勇気が必要だったんだから、そんなの当分は無理だろうけど。
この間のことがあってから、どうもを意識してしまう。この前までは気楽に誘えたのに…。
「なあ、見てみろよ。でかいぞ」
「そうだな…、…この中、入るのか?」
「怖いならやめたっていいんだぜ?」
「怖いわけじゃない。ただ…」
は薄暗い森の中を覗いて、小さく嫌な予感がする、と言った。おれも覗いてみたが、おれは特に何も感じない。
きっとの気の所為だ。はやく入ろうと腕を引っ張ればは渋々といった風に動き出した。
「…なにかあったらすぐに戻ろう」
「そんなのおれがどうにかするから、はやく」
「…うん…」
ざくざくと鬱蒼と茂る草木を掻きわけて進んだ。中は思ったよりも明るい。暗いと思ったのは入口だけだ。
「ほら、なんもないだろ?」
「そうだな…」
はほっとした顔になって笑った。その笑顔につられておれも笑って、しばらく意味もなく笑い合った。
こんな瞬間をおれは幸せだなあと思う。が笑うと胸がいっぱいになって、おれも自然と笑える。
そこにオヤジやみんながいれば、もっと幸せだ。絶対言ってやらないけど。
「あ、なァエース、この茸食えるかな?」
ん、と振り向けばが黄色の斑点のある茸を持っていた。あれは確か、昔ルフィが食ってずっと笑ってた…
「それはワライダケだから食うなよ。こっちなら食えるぞ」
「へえ…俺こんなの見たことないのに。エース、よく知ってるな」
「昔弟が食ったことがある」
「はは、やんちゃな弟だったんだな」
二人で笑いながら安全な茸を適当に歩きながら鞄に詰めた。あとで焼いて食おう。きっと美味い昼飯になるだろう。
ときどき生えてるおれもも知らないものは別に採って、あとでマルコあたりに聞くことにする。
「…お! エース見ろよ、川だ」
「ここらで一旦休憩するか」
「よっしゃ! この川の水飲めるかな…」
「持ってきた飲み水があんだろ」
湧水のが新鮮で美味そうだろ、と言っては川に飛び込んだ。は飛び込み癖でもあるのか?
「うっひゃあ、冷て! エース、お前も来いよ」
「いや、おれはいい」
水嵩の浅い川とはいえ万が一溺れたら厄介だ。海に呪われた体は水を拒否する。こんなとき、能力者でなければと思う。
能力者でさえなければ、と一緒に川に入ってその冷たさを感じることだってできただろうに。
「…、それいつまでかかる?」
「んー、名残り惜しいけど海のが気持ちいいし…もういい!」
「そうか」
「それにエースが一緒に入らないなら、つまんないしな」
はいわゆる天然たらしというやつなんだろう。女に言えば勘違いされるような言葉を平気で言う。
「エースがいればいいや」だとか「エースならいいよ」だとか、とにかく紛らわしい。
…それに、その言葉も例の相手に言っているのかと思うと胸がぎゅうと締め付けられて苦しくて、いやだ。
「次は俺がどっち行くか決めていいか?」
「ちゃんと帰れるんならな」
「よっしゃ」
けれど嬉しそうに笑うを見ると、そんな気持ちもすうっと消えていく。なんとも単純にできてるなと笑えた。
「あっちに果物はっけーん!」
「…って待て! おれを置いていくなこら!」
けど、の言葉に一喜一憂できる間は大丈夫だなとも思う。それだけおれはが好きってことで。
好きになってもらえなくてもいい、ただ親友としてずっと一緒にいられれば…。
「なあエースー、これ食えるかなー?」
先に行ったが戻ってきたと思えば、円のような模様をした果実を持っていた。知らない果実だ。
瑞々しく美味そうだが、さてどうだろうか。









鬱蒼と茂る暗緑の以下略。