「ん…、」
朝…? あれ? 俺、宴で…あれ!? なんで布団で寝てるんだ?
つか部屋に戻った記憶もないし、そもそもこの部屋、俺の部屋じゃ…ない?
二日酔いがガンガンと痛む頭でぐるりと部屋を見渡して、ふと目にとまった、紙。
麦わら帽子がトレードマークの海賊の手配書。そんなものを飾るのは、この船に一人だけだ。
「なんで…」
状況が呑み込めずに布団に顔を埋めた。そこで何か自分以外の暖かなものがあることに気付く。
なんだ、これ…? 触ってみれば、つるつるしたところと、ふさふさしたところがある。
そう、まるで人間みたいな…人間?
「エっ…エースッッ!?」
「んー…」
驚いて布団をどかしたことで寒くなったのか、エースが擦り寄ってきた。
エースは裸だ。これはいつものスタイルだが、こういうときには紛らわしい。
そして俺もまた同じく裸だった。これはおかしい。俺はエースと違って露出狂じゃない。
しかもエースをよく見てみれば、ところどころに赤い点があるようにも見える。
ま、まさか…酒の勢いで…!?
「エ…エース! 起きろ! おいエース!!」
今すぐに起きて俺たちの潔白を証明してくれ頼むから!!!!!
「んー…うるせェ…」
「いいから! 起きろ! 今、すぐにッ!!」
「う…ん…、」
あーとかうーとか唸って、それでもエースは起きない。
そりゃそうだ、寝起きの悪さはいつも悪い。宴のあとは、更に悪い。
「たっ、頼むから…」
「んー……、?」
「な、なんだ!」
「…はよ…」
その低く掠れた気だるげな声に少しドキリとしたが、今はそれよりも重要なことがある。
やらかしたのか、やらかしてないのか。重要なのはそれだけだ。
ひょっとして中々エースが起きないのも負担をかけたからじゃあ…。
ああ、だめだ、どんどん悪い方へ考える。早く覚醒して教えてくれエース!!
「あ、あのさ…俺…」
「ん…なぁ…」
「ん?」
ぎゅう、とエースが腰のあたりにしがみついてきて、…うう、可愛い。
ていうか寝起きだから。寝起きだから俺。そんなとこに抱きつくなばか。
「は、やっぱり優しいな」
「へっ!?」
や、や、優しいって、なんだ。悪い予感が頭をよぎる。
「あ、の…俺…昨日…つか、なんで部屋…」
「あ…? ああ…面倒だったから」
「は?」
「お前の部屋まで行くの、面倒で。悪ィ、嫌だったか?」
「あ、いや、嫌とかじゃなくてだな」
うん? つまりそれは運んでくれたということか?
だとしたら礼を言う必要があるし、何より安全な道だ。何もなかったと。
「…あと、なんで俺、服着てないわけ?」
「あ…。え、と。あー…その」
エースが言い淀むだなんて、珍しい。な、なんだ、何か悪いことでも…?
「――悪ィ、おれがその、汚しちまってさ」
「…エースが?」
「ああ…その、えーと、ゲロっちまって」
「あ…ああ、そういう」
だから裸なのか…それに口ぶりからして酒の勢いで致してしまったわけでもなさそうだ。
いやあ、良かった。でもどうしてエースも裸なんだ…? 俺の寝間着はこの筋肉だぜみたいな?
「えーと、じゃあエースはなんで裸なんだ?」
「…悪ィ、いつもこうだから、つい」
「あ、いや、うん、いつものスタイルは捨てられないよな、うん…」
やっぱりそうなのか…この露出狂め。普段から上着てないしな…。寒さには強そうだけど。
いや、むしろ悪魔の実で常に熱いとかそういうのだろうか? 医者としてはちょっと気になる…。
悪魔の実がもたらす人体影響か…研究にはよさそうだけど、船医である限りできなさそうだ。
能力者の遭遇率は高めだけど、研究施設もなければ時間もない。残念だ。
「そっか…悪かったな、世話になって。狭かったろ?」
「いや、暖かくて逆に良かった」
「そうか? エースはいい奴だな、俺だったら蹴り落としてる」
「はは」
じゃあ俺部屋まで全裸で行かないといけないのか…?
というか裸にする必要あったのか? かかったところだけ剥げばよかったんじゃあ…。
まあ、いいか。お互い酔っ払いだ、頭が回らなくてもおかしくはない。
「なあ、服貸してくんね? 」
「え、あ、そうだよな」
あれ、でもエースって上着持ってるのか? 着てるの見たことないけど…。
「シャツでいいか」
「あ、うん。…持ってんの?」
「おれだってシャツくらい持ってる」
…そうだよな…いくらエースでもシャツの一枚や二枚は持ってるよな…。
普段が露出狂だから持ってるのは予想外だった。まあ南から北まで回ってるし、持ってなきゃおかしいか。
「さんきゅ、エース」
「ん」
「…あれ? エースも着るのか?」
「え、あ…ああ。変か?」
「いや、似合ってるけど…」
似合ってはいるけれど、猛烈な違和感を覚える。やっぱり普段が裸だとなんか変だ。
…白いシャツが似合うな。シンプルなワイシャツだけど、やっぱり爽やかな感じがしていい。
やっぱり普段と違うってところが更に魅力を引き立てているんだろうか。ギャップ素晴らしい。
「エースがちゃんと服着てるの、初めて見た」
「…そうか? いや、それはねェだろ」
「いいやそうだって。だっていっつも裸じゃないか」
自慢の肉体美を晒したいのもわかるけど、目の保養というよりは目の毒だからやめて欲しい。
そう、特にそのくっきりとした鎖骨とか…ごくり。
「でもいいなあ、エースが服着てるのって」
「はあ?」
「やっぱさあ、違うっていいよな、新鮮で」
「そうか? いや…そうかも」
ああエースもギャップの魅力が理解できたか! いやあ、素晴らしい。ホントギャップって素晴らしい。
「あ、そういや俺のネクタイは? ネクタイも汚れた?」
「いや、それはそこらへんに…」
そこらへんと指差したエースがなぜか固まった。なんだ、なにかあったのか。
それともネクタイの場所を忘れたのか。別にいいんだけど、ネクタイのひとつくらい。
「あ! いや! ネクタイも汚れたんだった!」
ははははと不自然なくらいに笑う原因はゲロった罪悪感だろうか。
別にいいんだけどな、洗えば落ちるんだし。怒ってないことに気付いてないのか?
それはそれで可愛いけどなあ、怒ってると思ってびくつくエース!
「エース、なんか顔赤くないか?」
「き、気の所為だろッ」
「そうか?」
ならいいんだけど。もし熱でもあるようなら大変だから一応熱も測るべきだろうか。
でもエースは健康診断いやがるからな…熱を測るなんて言ったら火になって逃げるかも。
そうなったら捕まえられっこないから、よし言わずに測ろう。
「エースエース」
「なん…」
こつんとおでことおでこを合わせてー、はいおでこキッス!
…自分でもばかなことをしているとは思う。けどこれ子供相手にやると笑顔になってくれるんだぞ!
「なっ、ななな…ッ」
「んー…熱はない、か…? でもやっぱりエース、顔あか…」
「なにしやがる!」
「いってえ!」
俺の顔がドアップで嫌だったからって殴ることはないだろ…! くそう、痛いのやだ! 痛いのとんでけくそやろう!
「なんで殴るんだよ!」
「急に近づくからだろ!」
「近づかないと熱測れないだろー!?」
おーいてえ。エースのばか、強く殴りやがって。
そういう力仕事は海賊面でのみ発揮してくれ! 医者を殴るな!
「いらねーよっ、おれもうメシ食いに――い…ッ」
「ど、どうしたエース!」
急に腰を押さえて倒れ込んだエースを助け起こす。
腰…ただぶつけただけとかならいいんだが、なにか病気だったら…!
症状として腰痛の出る病例が即座に10つほど頭によぎったが、そうでないことを祈る。
「だ、大丈夫か? どんな風に痛い?」
「い、いい、大丈夫だ、原因はわかってる…」
「なにが原因だ?」
「…」
なぜかエースは黙り込んだ。何か言いにくいことなのか?
昨日どっかから転げ落ちてぶつけたとか? あ、エースならあり得そうだ。
「いや…お前が気にするようなことじゃねェよ」
「…そうか? でもあんま痛いなら言えよ、なんか出すから」
「いい、このままで。つか腹減ったから、なんか食おうぜ」
そう言われてみれば腹が減ってきた。腹具合からしてもう朝食の時間だろう。
あ、行く前に一旦医務室に戻らないと…たぶん二日酔いで待機してるバカどもが溢れてるから。
つーか俺も頭ガンガンするけど…。そんなに昨日飲んだっけ? ああもう、記憶がない。
まあいいか、どうせ宴で騒いで馬鹿やっていつも通り潰れただけだろ…ここで寝てる以外は。
「、はやく準備しろよ、メシ食おうメシ」
「おー、ちょい待ってー」





まだくっつかない 酔って寝て起きたら忘れてる王道パターン。 不自然に笑ってたエースさんの真実↓ 「(それでお前に縛られたなんて言えるか…!)」