「……ぷっ」
「え?」
「あ、あは……あははは! おっまえ、おもしれー!」
「え、え……え?」

どうして笑われているのだろう。
でもそんなことも気にならないほど、笑う名探偵はかっこよかった。
……このやろう、こんなときまで……。

「わ……笑わないでくださいよ……」
「なんだ、恥ずかしいのか?」

そりゃ、好きな人に笑われたら恥ずかしいに決まってる。
もう名探偵の前でポーカーフェイスなんてできそうにない。

「……」
「拗ねんなよ、キッド。オレ着替えてくるから、コーヒー淹れてくれるか?」
「え? あ……はい」

コーヒーかぁ。やっぱ、ブラックなのかな?
名探偵はそれを言う前に部屋に戻ろうとしていた。

「えっあ、あの名探偵、砂糖とかは……」
「お前に任せる」
「えっ……」

そ、それって、オレに当ててみろって……言ってるの、かな……。
ど、どうしよう。名探偵の好みは調べてあるけど……
ふ……普通にブラックでいいのかな。
……でもこれで淹れないのも悪いし、ブラックじゃなくても追加すればいいか。
コポコポとマグカップにブラックを淹れる。マグカップは、多分合ってる。

「良くわかったな、オレがブラックだって」
「わひゃっ」

び、びっくりした。

「は……はやいですね」
「そうか? ……ほら、これ」
「はい?」

手渡されたものは、布だった。
この形状はなんだか見覚えがあったけど、
記憶しているものとは随分違う。
フリフリで、可愛らしくて。

「……これは?」
「エプロン」
「いえ、それはわかりますけど……」

なぜに、フリフリ?
……まさか、彼女が使ってたもの、とか……

「似合うだろ。お前」

えっ……と名探偵を見ると、ニヒルな笑みで名探偵がオレを見ていた。
すごく、かっこいい。
不安なんて全部ふっとんでしまいそうなくらい。

「えっ……あ、あの……」
「似合いそうだと思って、母さんのを持ってきたんだ」
「お母様の……?」
「あぁ」

そんなもの、着ていいんだろうか。
汚してしまったら、大変なんじゃ……?
フリフリで可愛らしくて、母親の性格がわかりやすい。
きっと、自分中心で自分勝手な性格なんだろう。名探偵には失礼だけど。

「……でも」
「着てくれるか?」
「は……はい」

そ、そんな眼差しで見られたら、着るしかないじゃん……。
名探偵がどれだけオレが惚れてるか、自覚がないんだ!
白いスーツが汚れるのも駄目だろ、なんて名探偵の言葉に促され、
スーツの上にエプロンを着る。
なんだか、もこもこする。スーツの上だから仕方ないか。

「やっぱり似合うな」
「そ……そうですか? 恥ずかしいです……」
「似合ってるんだから、いいじゃねえか」

な……なんだろう。
この人は、天然タラシなんだろうか……?

「あ……ありがとう、ございます」

顔が熱い。見なくても分かる。絶対に真っ赤だ。
出来れば気付かないでほしいが、きっと気付いてしまうだろう。

「……どうした、キッド」
「え!? な、なにがですか……?」
「顔が真っ赤だぞ。風邪、引いたのか?」
「は……?」

か、風邪?
……そうだ、この人は鈍いんだった……。

「いえ……大丈夫ですよ。ただ、ちょっと恥ずかしいだけで」
「そんなにか? ……まぁ、嫌なら……脱いでもいいけど……よ……」

そう言う名探偵はとても悲しそうな顔をしていて、脱ぐに脱げない。
くそう、惚れた弱みというか、なんというか。
名探偵にそんな顔をされちゃあ、愛用しちゃうだろ。

「い、いえっ、着てます、愛用します!」
「そうか? 無理しなくてもいいんだぜ……」
「全っ然大丈夫ですから!!」
「……そうか」

名探偵が少し嬉しそうな顔で笑った。
あぁ、かっこいい。あなたはいつでもかっこいいですさすがはめいたんてー。

「でも……本当、似合うな。お前」
「そ、そんなに褒めないでください……」

恥ずかしいんです。本当に。心の底から。
勿論名探偵の天然たらしもそうだけど、このフリフリエプロンも。
変装中ならなんてことないけど、流石に素の顔でこれは、ない。








ここまで書いて飽きた。