組み敷いた夜の頬に刻まれた月の紋様を、ゆっくりと指でなぞる。 美しい造形の顔が、大きく歪んだ。 歪んでも美しいと思うのは自分のみのものか、それとも誰もが感じるものか。 「夜、」 「……退け」 そのまるで地を這うような声すらも美しいと思える。 すい、と頬をなぞる指を首筋へと滑らせれば、彼は更に顔を歪ませた。 「僕のことは嫌い?」 「退けと、言っている」 釣れないね、と茶化せば彼は美しい顔を更に歪ませた。 「ねえ夜、」 「退けと言っているのが聞こえないのか」 「イヤだよ。折角捕まえたのに」 ふふ、と笑えば彼はギリリと歯を食い縛った。 そんな君の顔も美しいよ、でもあまり歪めて美しい顔を醜くしないで。 僕の思いも届かず、彼は不快そうに顔を歪めるばかり。 どうにかしたいと軽く接吻ければ、彼はもっと顔を歪めてしまった。 「……っのクソ野郎……」 「言葉が汚いよ、夜。もっと美しく喋ろう?」 「誰が……、っ!」 美しく整った唇から汚い言葉が飛び出るのが嫌でまた接吻ければ、 彼がもっともっと顔を歪める。 嗚呼、その歪みが嫌だと、言っているのに。 「夜は美しいね」 「……、同じ顔だ」 「そうじゃない。そういうことじゃないんだ」 顔なんて、全然違うじゃないか。 一つ一つのパーツは同じでも、それが集まれば全く違う。 魂の違いで、何もかも変わってしまう。 君のそれは美しいけれど、僕のそれはとても醜いんだ。 「ねえ、夜……」 「……」 夜は本当に、美しいね。造形だけでなく魂の形まで、美しい。 例えば今だって、僕の言葉を無視はしても視線だけは逸らさずにいてくれるんだ。 その魂故に、僕を全て無視することができない。僕だったら存在すら消し去るだろうに。 「夜……よる……」 「……、」 「夜が好きだよ。大好き。あいしてる」 「自分の役割を忘れたか」 「忘れてなんかない。僕は朝だもの」 夜と共に在り、そして交る事無く沈んで往く運命だと言いたいんでしょう? そんなの解ってる。いつだって忘れたことがない。忘れることなんて出来ない。 自分の運命なんだから。運命。宿命。天秤の役割。 天秤は釣り合ってなくちゃ、いけないんだから。 「でもね、常に対立するよりも、常に依存していた方が楽じゃない?」 「楽なものか」 「そう? でも僕はその方が良いと思ったんだ。だから好きだよ、夜」 「……お前の頭はどうなってるんだ?」 「覗いてみる?」 元の構造は同じものだとは思うけどね。 まぁ存在してから変異した可能性も、限りなく近いとは言え零ではないと思う。 「ねえ……夜?」 「……、」 「凄いね、こんなに近くに居るのに、僕たちは全然傾かない」 「……!」 「ねぇ、どう思う? このことについてはさ」 「お前の適当な均衡状態に世界も驚愕してるんじゃないか?」 「ふふ、珍しいね、夜が冗談を言うなんて。でも、」 今この状況で、言う冗談じゃないなぁ。それは……。 今有利なのは僕だ。君じゃないだよ。わかる? ねぇ、夜。 「馬鹿だね」 そしてまたゆっくりと接吻れば、もう諦めたのか抵抗はない。 ただ、射殺すような眼光は未だ鋭いままだ。 調子に乗って舌をそっとさしこめば、ガリリと容赦なく噛まれる。 「……痛いよ、夜。血が出た」 「不味い」 「血だもん、不味いに決まってるじゃない」 人の舌を噛み切ったりするから。 僕も不味いんだよ、口の中に鉄の味が広がって。痛いしね。 もう治ったはずなのに、未だにじんじんと痛みが広がここまでしかできてナーイ\(^o^)/