――オーギュスト・ローラン

後の世に

 

【神の手を持つ者】

 

と称される――

 

 

 

 


伝説の彫像家である

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぎゅー、きたよー」
「イヴェ?」
「おぎゅーおちゃー」
「ああ……ちょっと待ってくれ……」

オーギュストは棚を開け覗く。
オーギュストは棚の中に顔を突っ込む。
オーギュストは出る拍子に頭をぶつけた。

「あー、おぎゅーへーきー?」
「……すまない、イヴェール。茶菓子がこれしかない」
「むー?」
「抹茶羊羹と栗羊羹、どっちがいい?」
「まろん!」
「よし、今切る」

そう言い、のんびりと包丁を取り出し、のんびりと羊羹を切り出した。

「イヴェは、栗が好きなのか?」
「うん。へーかもすきだよ」
「そうか。美味いからな」
「うんっ」
「ほら」
「わーいマロン!」

もぎゅもぎゅと咀嚼するイヴェールを眺めながら、
オーギュストも抹茶羊羹を食べ始める。

「……ねえおぎゅぅ」
「ん?」
「ちょーぞー、できた?」
「いや、まだだ」
「そっかぁ」
「うむ」

……もきゅもきゅ。
…………もきゅもきゅ。
………………もきゅもきゅ。
二人の間に会話はなく、ただ羊羹を食べ続けるだけだ。
しばらくして、イヴェールが口を開く。

「おぎゅ」
「ん?」
「……かんせー、したら……みせてね」
「……ああ」
「ぜったい、だよ」
「ああ。約束しよう」
「……うん。おぎゅ、」
「……ん?」
「いちばんさいしょに、みせてね」

「……ああ。約束するよ、イヴェール」

「うんっ」

 

 

 

 

 

オーギュスト・ローラン

後の世に【神の手を持つ者】と称される――伝説の彫像家である。

 

 


彼がイヴェールに彫像を見せることは――

 

 

 

 

 

 

一度もなかった。