「よぉっす、ティキ。元気ィ?」 「? お前、仕事は」 「ンなもんソッコー片してきたに決まってンだろー」 大量発生したっていうから期待してみりゃ、ぜんっぜんいねーの。 チョーシ抜けしちゃうよなぁ。 「ふーん。今日は誰のを真似したワケ?」 「今日? 今日はコレ」 どこにしまったかな。ポケットだっけ? ……あぁ、あった。 左のズボンに無造作に突っ込んであった槌を取り出して、ティキに渡す。 「んーと。誰の?」 「ラビの」 「誰だっけ」 「お前風に言うならば、眼帯くん」 「あぁ……」 少年の友達だっけ? そうそう、アレンを想って泣いてくれるイイコ。 後継者という肩書きに葛藤している、カワイソウなコ。 すっげ、カワイイんだぜ? 「心底どうでもイイ」 はぁと溜息をついてこれ返すよ、とティキが槌をこっちへ向ける。 きちんと柄をこちらへ向けている所は、プラスだ。 でもわざわざ俺に受け取らせようとしたのは、マイナス。 プラスマイナス、ゼロ。……だね。 まぁいいや、消えていいよ。 ティキの掌の中で槌が蒸発する。 「えっ……そうか、悪い。渡す必要もなかったか」 「まだ慣れないの?」 「あ?」 「一瞬驚いた顔、した」 「……そりゃ驚くだろ。いきなし武器が蒸発したら」 ……ま、別にそんなに見せてないしなぁ。 手で数えられるくらい? でも2,3回見せられりゃもう馴れると思うんだけどなぁ。 「……そーだティッキィ」 「ティッキーて言うな。で、なに?」 「髪、伸ばしたんだな」 「遅っ」 だって忘れてたんだもんよ。 しょーがねぇじゃん? 「ケッコー似合ってるよ」 「そらどうも」 「ホントだって」 褐色に黒髪に長髪なんて、かなりの萌え要素じゃネ? 俺的には、ストライク。超ストライク。 無駄にイイ顔してる分、更にストライク。惚れるね。 「俺、お前にゾッコンかも」 「キモい」 「あぁ酷い。キズツクね」 「胡散臭い」 「もっと酷いや」 俺はティッキィのこと、好きだけどねェ。 そうさね、敢えて言うなら、ラビと同じくらいには。 だってドッチも可愛くて、どちらかを捨てるだなんて、勿体ないだろう? だから俺はこっちにもあっちにも存在シテルんだもの。 「タバコ吸っていーい?」 「どーぞ」 すぱぁ、とティキがタバコをふかす。 あ、なんか、オイシそう。 煙を見送るように空を仰ぐティキが、たまらなく、エロい。 「ねぇティッキィ?」 「あぁ?」 「タバコ」 「……ん、煙かったか? 消す?」 「んーん? そじゃなくて……ちょーだい?」 「だぁめ。未成年にはあげませーん」 「ケチー」 まぁ別に、イイけどね。 俺はティキの吸ってる姿見られれば、それで。 だってティキ、お前、ほんとやらしいんだよ? なんでだろぉね。色グロ+泣きぼくろ、だから? お前の泣きぼくろは、えろいもんね。 「……なんか、やらしー眼、してない? 」 「気のせーじゃなぁい?」 そういえばティキって泣きボクロだから、涙もろいのかなぁ? 甘党が負けたときは、やっぱりみんなで大泣きしたっぽい、けど。 あーあ、見たかったなぁ。泣いてるティッキィ。 別に漫画で見たから、どんなかわかってるけどね。 でもホラ、紙の上であんだけエロけりゃ、もっとデショ? 「なぁティキー?」 「あ〜?」 「泣いてくんない?」 「はぁ? 意味わかんねー」 あぁそうか、俺考えてただけだモンな。 行き成り言われたら、不思議かぁ。 「んーとね、見たい。ティキの泣いてるトコ」 「もっと意味わかんねー。なんで見たいんだよ、俺の泣き顔なんて」 「俺、見れなかったし」 「あ?」 「ラビたちと一緒にいたろ? だから、見てない」 「そりゃお前がエクソシストだからいけないんだろ」 ンなこと言われたって、なぁ。 イノセンス持ってるんだから、しょーがないだろ? 俺だって持ってなけりゃ、ラビとも会わずにお前一筋さ。 あぁでも、それだと戦場で会っちゃうカモね? 「つーか、お前にだけは見られたくねー」 「えー、なんで?」 「ぜってーからかうだろ」 「そんなことないって」 嘘だ、とティキは信じない。 信じてよぉ、ティキ。俺、お前の顔ダイスキなんだから。 どんな表情でも見たいと思うのは、アタリマエでしょ? 「ロクなこと考えてないことだけはわかった」 「むー……じゃあさ、ティキはどんなときに泣く?」 「……泣かせる気か?」 「ん? いんや、泣くのを待つ」 自分で泣かせるのも楽しいけどさ、他人に泣かされてるティキも、見たいなぁ。 あぁそうだ、ロードの泣き顔も見てみたい。今度、見せてもらおうかな。 きっと可愛いんだろうなぁ、ロード。元がイイから。 「べつに……俺だって、人間なんだから」 「ん? 泣く条件のハナシ?」 「普通に、泣くけど」 「ホント? じゃあ俺が死んだら、泣くの?」 「……どーしてそういう不吉な話を……」 「イーじゃん、別に。例えバナシだろう?」 泣いてくれるのかなぁ、ティキ。 ラビも、泣いてくれるかな。 あぁでもラビは、泣いたらまたブックマンに怒られるね。 ティキはロードにからかわれるかなぁ。案外ロードも泣いてくれるかも。 千年公は、きっと号泣してくれる。双子はわかんない。シェリルは……どうだろ。 「……そーだな」 「うん? なにか言った?」 「いや、なんも? 俺帰るわ」 「かえる」 かえるって、なんで。 折角会えたのにー。 「白になってくる」 「白と言えば、この間、しろティキだったね」 「あ?」 「マスターキー、くれたトキ」 「あぁ……そうだな」 つーかしろティキとかくろティキとか以前に、 長い袖がすっげー可愛くてそれどころじゃなかったけど。 手が隠れるってお前さぁ、狙ってんの? 俺を萌え殺す気? しかも袖のボタン外してるとか……白いシャツから覗く黒い肌が、すんげやらしかった。 「しろ、俺も結構好きなんだ」 「へえ? そりゃ初耳だな」 「だって初めて言ったもん」 「くろも、大好きだよ?」 「ハイハイありがとありがと」 そんじゃあな、とティキが去っていく。 う〜ん、後ろ姿も、なんだかやらしく見えてきた。 ティキはひとつひとつの仕草がやらしーなぁ、もう。 「また二人で会おうな、ティッキィ?」 「ティッキーって言うな、ばーか」 そう振り返って微笑むティキの顔が見たくて、 俺はやっぱりどちらにも在り続けるんだろうなと、ティキを見送った。 * 方舟戦後