旦那に、枷を命じられた。





主のためならばからだのひとつやふたつ迷いなく差し出す忠心はあるが、いかんせん自分は戦忍。
まさか戦忍である自分が指名されるとは。幸村様の寵を受けるならば見目麗しい小姓だろうと思っていたのに。
体はそこらじゅう傷だらけだし、衆道など興味のないからだは慣れたものではない。
気持ちだけが立派でも、実力がないのでは駄目だ。
ああ、せめて苦手だからと色修行を怠らずにいたならば、主を満足させられる手練れがあったやもしれないのに。
「…才蔵ぅ」
「いいじゃないですか、べつに」
「おっ、お前は修行を積んでるからそんなことが言えるんだ!」
たとえ今から衆道についての知識を埋め込め一時的に旦那を満足させられたとしても、
自分のものがまったく反応していないのではきっと傷付かれてしまうだろう。自信を失くしてしまうかもしれない。
つまり、感じなければならないのだ。この未開通の身で。
「べつに、同じ男ですよ。構造は同じです」
「同じでも才能がなけりゃ意味ないだろー!」
「平気ですよ。適当に慣らして、あとは相手に腰降ってもらって…」
「それじゃあ奉仕にならないだろ!!」
「え? 奉仕するんですか」
「あ、あ、あたりまえだろ! 相手は旦那だぞ!?」
主相手にまぐろでどーすんだ、まぐろで!
失礼だろ! つーか旦那はまだ童貞なんだからちゃんと自信を持ってもらわないと困るし!
「はあ…幸村様も長ならまぐろでも構わないと思いますが」
「いや駄目だろ、常識的に考えて!」
「…常識の通じるおひとでもないくせに」
「なに!?」
「いいえ、べつに」
あああ、一体どうすればいいんだ。いまからでも慣らすべきなのか。
わからない、もうなにもかもわからない。
「…長は、なにがしたいんですか?」
「は? だから、旦那の枷の相手を…」
「そうではなく、あなたは感じさせたいんですか、感じたいんですか」
「そ…そりゃ感じさせたいに決まってんだろ」
「ですが長は自分の素質を気にしているではありませんか」
「そっ、だ…だって」
己が行為に感じなければ傷付いてしまうのだ、大切な主が。
これは推測ではなく確信に近いもので、だからこそ感じなければいけないという使命感があった。
「旦那は、俺が感じてなかったら、きっと悲しむ」
「どうしてそうお思いに?」
「どうしてって…、…そういえば……」
どうしてそう思ったのだろう?
よく考えてみれば旦那が初めに俺を選んだのはきっと一番近しい存在からだ。
破廉恥な行為を疎む旦那にとってはまだ顔見知りの方が良いとでも思ったのだろう。
べつに衆道の気があるわけではないだろうし、それならばいやでも性別を意識する性器は邪魔だ。
そう、勃起済みなんて論外である。
「そうか…たしかに勃起した性器は邪魔だよな」
「…は? え、今の問いからなにがどうなってそんな言葉が」
「才蔵、頼みがある」
「…なんですか」
「奉仕の仕方を教えてくれ」
「…はあ」
な、なんだその溜め息は!
俺様今本気で恥を忍んで頼んだってのに!
「教えてと言われたところで、俺に何をしろってんですか」
「いやだから修行をつんだお前に…」
「俺は実践で教わってるんで、強制的に実践ですけど?」
「……いや、やっぱりいい」
旦那以外の男と交合なんてしたくない。俺に衆道の気はないし、あったとしても受身は好まないはずだ。
いやそれは時と場合によりあり得るかもしれないが、進んで部下に犯される趣味もない。
「でしょう? だから余計なことしないで、身一つで行けばいいんですよ」
「そ、そんな才蔵…」
簡単に俺様を見捨てるなよ! それでもお前は俺の部下なのか!
「元服を過ぎた男子、しかも上司を相手に今更色を教えられるほど異常な神経は持ち合わせていないもので」
「うっ……」
「色の修行は受けていますが、衆道の気はありません」
やっぱ、そうなるよなぁ。修行を受けていることと好むか否かは別だし、そもそも俺は受けてないし。
そんな任務回ってきたこともないし、一生必要ないと思ってたのに。まさかあの主に伽を求められるだなんて。
……そもそもこんな傷だらけのからだで幸村様は満足なさってくれるのだろうか。
「ううん… ううーん……」
「うんうんと唸らないでください」
「俺様は今大事なことを考えてるんだよ!」
「如何にして幸村様に奉仕し、満足してもらえるかをですか」
「う、……ん」
そんなはっきり言われてしまうとなんだか恥ずかしかった。
必死にまらを吸えばなんとかなるだろうか。そんなもの吸ったことはないけれど。
「はぁ…そんなに性器を見られるのが嫌ならば、背面座位で致すとか…」
「そ、それだぁああああ! 才蔵! 頭いいな!」
「……はぁ、それはどうも」

















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幸村→(←)佐助