「わぶっ」
「お、悪い」
「い、いえ…こちらこそ」
思い切り前の人の背中にぶつけた鼻を擦って顔をあげたら、外人だった。
す、すげえ、銀色だ! 二次元みたいな配色だ!
銀髪に紅色の瞳で、まるで兎のような色。綺麗な色だ。でもちょっと怖い。
つーかなによりもでけぇ…! 180くらいあるだろ! 165の俺涙目!
「…」
「あ、あの…なにか」
外人こええー…! なんで俺のこと見てんの!
しかも身長が俺より高いから更に怖い…!
「なあ、お前ここらに住んでんのか」
「え? はぁ、まあ…一応」
「ちょっと道を聞きたいんだけどよ、ここらへんに本田っての、住んでないか」
「ほんだ…」
ほんだ…本多、本田、誉田。
うーん、ここらへんにいたかな…
「…あ、」
「知ってんのかっ!?」
「え、と…ひょっとして、菊さんに会いに?」
「そういやキクっつー名前だったかも」
あの若作りじいさんか。
俺が小さいときからあのじじい外見変わってねーぞ。
「それなら近いですよ。お連れしましょうか」
「おお、でかした! 褒美にこっちこい、撫でてやる!」
「わぶ」
こっちに来いと言ったのに自分から歩み寄って撫でてきた。
なんだこの人。年の離れた弟でもいるのか?
いや、ハグとかされないだけマシか。
「こっちですよ」
「おー、連れてってくれよ、坊っちゃん」
「です」
「お?」
…あれ? 俺今なんで名乗ったんだ。
じじいの知り合いくさいとはいえ、知らない人に名前を教えてしまった…。
「名前か。ジコショーカイだな? 俺様はギルベルトだ」
「ギ…?」
「ギルベルト。ギルベルト・バイルシュミット」
「ギ…ギル、ベル…」
うう、俺のリスニング能力の低さを舐めないでくれ。
横文字を口頭だけで伝えられて言えるほどいい耳はしていない。
「…あー、ギルでいい」
「ギ…ギル」
「そう」
ギル…ギルかぁ。うーん、外人の名前だ。何人なんだろう。
生憎と名前だけで何人か判断できるような知識はない。
むしろ最近は日本人すらわからないくらいだ。
「えーと…それで、ギルさんは菊さんにどんなご用で?」
「なんか知らんが招待された」
「…招待」
なんだか猛烈に嫌な予感がする。
「き…菊さんとは、仲が良いんですか?」
「弟が世話になっててな」
「へ…へえ」
ああ、駄目だ、確定だ…!
こいつは確実に、「可愛い兎さん」だ…!
「そ、うなんですか」
「ああ、俺様くらいになれば特に親しくなくとも招待くらい」
「…げた方がいい」
やばい、大変だ。この人を救わなくては!
「あ?」
「もしあんたが金髪ムキムキの知り合いならば、逃げた方がいい」
「…? ヴェストを知ってんのか?」
「逃げろ! 菊には俺から言っておく! だから――」

「おや、なにをしてるんですか」

「きっ…菊!」
「ギルベルトさん、いらっしゃい」
「え、ああ」
見 つ か っ た … !
も、もう駄目だ…! 兎さんは菊の毒牙にかかっちゃうんだー!
「、顔から考えていることがダダ漏れです。失礼ですね」
「うっ」
「大体ギルベルトさんに会いたい、と言ったのはからでしょうに」
「そうだけど…! で、でもまさか三次元の人間だとは思わなくて!」
菊が「可愛い兎さんを見せてあげますよ」っていうから動物的な兎だと思ってたのに!
ま、まさか人間の、しかもこんなカッケー人連れてくるなんて思わねーよ馬鹿ぁ!
ウキウキ気分で家を出た俺になんて仕打ちだー!
「おやおや、でも可愛いでしょう?」
「可愛いけどさぁ! 人間じゃん!」
「零夜も三次元に手を出してしまえばいいんですよ」
腐れじじいめ! 何歳なのかは知らないけどじじいのくせに腐ってやがって!
「ふふ。さてギルベルトさん、こんなところですみません。どうぞ上がってください」
「え…あ、お、おう」