「なー、スイ?」

話しかければ、綺麗な紫陽花の髪がが小さく揺れる。

「なんだ」

水のように澄んだ声が、不機嫌そうに答える。

「お前ってなんでそんなに綺麗なの?」
「知らん」

鮮やかな紫陽花の持ち主は、ふいっと反対側を向いて答える。

「……じゃあさ、なんで水を綺麗にすることが出来るの?」
「それも、知らんな」

素っ気無い紫陽花。
綺麗なのに、どうしてそれを利用しないのか。

「俺、お前のことあんま知らない」
「喋ってないからな」

鮮やかな紫陽花が、

「……教えてよ」
「何故だ?」


「…… 屁理屈屋」
「どうとでも」

綺麗で鮮やかな紫陽花の髪の持ち主は、素っ気無く答えた。




















彼はポケモンだ。
しかも、唯一種――人工的に増やすことのできない、伝説のポケモン。スイクン。

俺は人間だ。
そこらじゅうにわんさか居る。大量発生している人間の一人。。

ポケモンと人間。
スイクンと。
ただ一つしかないモノと、大量生産されているモノ。
どちらが大切で、どちらを優先すべきは決まっていて、俺はスイクンに尽くすと決めた。

「何を考えている?」
「べつに」
「そういじけるな。教える気がないわけでも、ない」
「……え?」
「なんだ、その顔は。そんなに意外か?」

意外もなにも、いや意外は意外だが、俺の考えていることと、彼の考えたことが全く違かった。
俺は自分の小ささと彼の大きさを考えていたわけだし、
でも彼は俺が教えてくれないことにいじけていたと思っていたようで。
生きているんだ、……お互いに。
こんな意見の違いがそう再確認させてくれる。
こういうことが、俺を安心させてくれたり、して。

「……ん。ちょっと、意外」
「そうか。……何が、知りたい?」
「んー……スイクンは、お前で最後なの?」
「そうだな。俺は雄だから」

人の間では、唯一種――伝説のポケモンには性別がないと言われているが、実際それは違う。
唯一種は人に捕まることによって、無性へと変化するのだ。

「未発見の……いや、唯一種は、メタモンでも無理らしいしな」
「そうだな。昔……そう考えた同属が居たよ。結局、無理だったようだがな」
「へぇ。考えることは、ポケモンも人間も同じなんだな」
「そうらしい」

人間もポケモンも結局は同じなんだ。
彼が気まぐれにこうやって話してくれる中で、
人とポケモンの共通点を見つけるたびに、俺はいつも嬉しくなる。
――彼に近づける気がするから。
実際そんなことは、ないのだけれど。
ふと顔を上げてスイの顔を見ると、彼は見たこともない表情をしている。

「……ん、と」
「質問の内容が思いつかないか?」
「む」

――何を聞けばいいのだろう。
こんな顔をしている、スイに。なにを?

「な……あ、スイ」
「なんだ」
「……あのさぁ」
「なんだ」
「んと――」
「なんだ」

「スイってさ、名前とか……あんの?」

「名というものは、個を表す言霊だ。俺たち唯一種に個は必要ない。常に全でいい」
「……そ、か」
「まぁ、全で良いと言っても もう俺で最後だがな――」
「ん……」

聞いてはいけない質問だっただろうか?
いつもはスイの言葉を聞いても、そんなに深く思わなかった。
だが今は、何故かそう思う。
聞いてはいけないことだったのだろうか?

「……」
「どうした? 」

スイが、怪訝そうな顔で見ている。
――あの顔は、もうない。

「あ、いや……次の質問どうしよっかな、って」
「別に今すべてを聞くこともないだろう。俺はいつでも答えてやる」
「え……ほ、ほんと?」
「ああ」
「……スイ、どうしたんだ?」
「何がだ」
「いや。今日のスイ、なんか、やさしいなぁって」
「……そうか?」
「うん」

いつもより表情も柔らかい気もするし、なんて思うが、これは言わないことにする。
言ったら、きっと機嫌を損ねてしまうから。
スイは世間で言い表せば、所謂“つんでれ”というものなのだから。

「……」
「ん、え、あ、あぁ、なに?」
「――いや。ライとエイが呼んでる」
「そっか。……じゃ、行くか」
「ああ」