「あなたのポニータのレベルは……あぁ、39です。あと1レベルで進化ですよ」 「え……?」 「……なんで泣いてるんだよ、お前」 「だって……だって……っ」 「あのなぁ……ポケモンが進化するってことは、強くなるってことだ。なにが嫌なんだ?」 「ばかぁ……っ」 「はぁ!? 馬鹿って何だよ!」 馬鹿。 なんにもわかってないんだ! 「トーマのばか! も……っトーマなんて、どっか行っちゃえ!」 「馬鹿はお前だ! お前、俺以外のポケモン持ってないだろっ」 「捕まえるもん!」 「アホ。俺以外にお前と居られるヤツなんかいるかよ」 「……ふ、ふぇ……」 「ちょ……どうしてソコで泣く!? 喜べよ!!」 馬鹿。馬鹿トーマ! 「……っ……」 「あー……と、とにかく、ワケを言えワケを! 意味もわからず泣かれちゃ居心地悪いんだよ!」 「だ、って……トーマが進化しちゃったら……」 トーマ。私の愛しい愛しいポニータ。 貴方はギャロップになってしまうの? 「貴方のその宝石のような黒の瞳も、真っ赤に染まり上がってしまうんでしょう?」 「……!」 「綺麗な朱色の髪だって、真っ赤に燃え上がった焔になってしまうんでしょう?」 嫌。そんなの、嫌! 綺麗な黒も、 綺麗な朱も、 消えてしまうだなんて! 「……」 「ひ、っく……」 「馬鹿だな……姿が変わったって、俺は俺だろ」 「でもぉ……っ」 「姿が変わるのが嫌なら、進化しなけりゃいい」 「でも、トーマは進化したいんでしょう……?」 「そりゃ……」 トーマが気まずそうに目を泳がせる。 私は、そんなトーマにどうしようもない苛立ちを覚えた。 ――トーマの馬鹿、 「でもな、」 トーマが、真っ直ぐ私を見て言う。 「進化しなくたって、強くなれるんだから」 「……あ……」 「だから、別にいいんだ。進化しなくたって、さ」 「……トー、マ」 「お前が俺を好きで居てくれるなら……進化なんて、しない。いつまでも」 「……ふ……ふぇぇ……っ」 「ちょ……なんでまた泣くんだよ!?」 人が折角格好付けたのによ! トーマが言っている。 けれど、私はそんなこと聞く暇もなく、泣いている。 だって、だって、トーマ、 「わた、し……私……嬉しい……っ」 「へ……、え?」 「嬉しい」 私は、トーマに静かに微笑みかけた。 * 灯馬(トーマ)です