小太郎は喋らない。
風魔の一族である小太郎に、言葉など必要がないからだ。
小太郎は瞳を明かさない。
風魔の一族である小太郎に、個を主張する瞳は邪魔だからだ。
小太郎は伝説だ。
五代目風魔小太郎として名を轟かす小太郎は、伝説の忍として恐れられている。
噂では身の丈七尺二寸筋肉隆々の鬼男などといった容姿まで伝わっている程には恐れられている。
多分これ、小太郎本人のアレじゃなくて根も葉もない噂か先代小太郎あたりが流した偽情報だと思うんだけど。
しかしその噂が消えないあたり、恐れられていることに間違いはないんだろう。
きっと忍の間では鬼のような忍者といわれているに違いない。

けれどまあ、実のところ風魔小太郎は、基本人畜無害だ。

伝説の忍者だとか
出会った者皆殺すとか
完全無欠だとか
いろいろ言われてるけど。

正直にいえば、小太郎はドジっ子のカテゴリに入る。ていうかいい子だ。
ときどきふらふら歩いて柱にぶつかってるし。
この前なんて木の上で日向ぼっこしてて木から落ちてたし。
栄光門から見える景色が好きだけど高いのちょっと怖いとか言ってたし。
おじいちゃん孝行好きだし。
頭ぐりぐり撫でるとすっごい喜ぶし。
これのどこが伝説の忍者? ってくらい小動物キャラだ。
猫みたいに俺に懐いてくれてる。ちょうかわいい。
北条さん家に小太郎くんを俺にくださいって言いたいくらいに。

でも、ひとたび戦となると、それが途端に変わるから、困る。
お前のことは俺が守るぜ! とかそういうことを視線で言ってくれるのは嬉しいんだ。
嬉しいんだよ、嬉しいんだけど。……ギャップ、ありすぎじゃね?
いや、別にいいんだけどね? ほら、あれじゃん。ギャップ萌えとか言うし?
異世界のお嬢さん方はそれがいいんだろうよ。でも俺は男なわけよ。
ついでに言っちゃうと、同じ忍なわけよ。


忍として、忍に守られちゃう俺って、一体なんなんだろうって話だよ。


「そこんとこどう思うんですか、小太郎くん」
「…?」
「いやうん、俺も忍ってことさあ、わかってる?」
こくりと頷いてくれたのは良かった。ここで否定されてたら俺泣いてただろう。
「そりゃ俺、忍歴はお前より浅いけどさあ。でもひとりで戦えるんだぜ?」
「……?」
こてん、と首を傾けた小太郎ちょうかわいい! でも俺は誤魔化されないぞ!
小太郎くん、今日という今日は決着付けさせていただきます!
「つまりだな、俺のこと別に守ってくれなくても、いいんだって」
「…」
ふるふると静かに小太郎は首を振った。
何故だ、何故なんだ小太郎! 何故理解してくれないんだ!
「いつも小太郎俺のこと守ってるだろ。守ってくれなくてもいいんだよ」
「…」
「いや否定されても…え、ていうかなんで俺のこと守ってるの? 俺そんなに弱そうなの?」
「……」
ちがうちがうと小太郎は首を振る。うん、今肯定されてたら俺凹んでたと思うよ。
「じゃあなんで…」
「…」
「気にせずに守られてろって? そりゃねーだろうよ」
俺にも意地とかそういうものがありましてね…。
とりあえず同業者に守られるのってかなり居た堪れないんだぜ!
「、」
「いやいやいやいや俺に忍をやめろってか!?」
そんな、酷いぞ小太郎! お前は人畜無害だと思っていたのに!
意外と毒を吐くじゃないか小太郎…!
俺の柔らかいハートは突き刺さる言葉だぜ…!
「ううう、いくら俺が名無しの忍だからって酷いぜ…」
「…」
「頭を撫でてくれるのは嬉しいが原因はお前だぞ小太郎」
「……」
「いやあの、謝られても」
そりゃ確かに伝説の忍とか言われてるお前よりは弱いさ! 悲しいことにな!
俺がお前を助けられたことなんて残念ながら戦闘中一度もないしな!
でも雑魚兵にくらいは勝てるんだぞ!? お前よりは弱くてもだ!
そ、そりゃあ敵将レベルになりゃ無理かもしれないけど…。
「小太郎ぉ」
「……、」
「俺情けないじゃん…」
俺だって同じ忍なのに。確かに修行とか受けてないしぽっと出だし不審だけど。
ちょっと違う世界から来ちゃってテンションあがってつい忍者になっちゃっただけだけど。
それでも今じゃそれなりにこう…職に意識があるというか、忍としての自覚とか出てきた頃じゃん!
「…………」
「だからそーいうこと言われてもさぁ…」