ふと、家の外に気配を感じた。 山奥にひっそりと建つ地味なこの家屋にこんなにも静かにやってくるのはひとりだけだ。 特に警戒もせずひょこっと外を覗けば、ほらやっぱり。 「小太郎? どうしたんだ、そんな大荷物背負って」 「……」 何故か来訪者の両腕には人が担がれていた。しかもなんか。瀕死だ。 「同業者? そいつら忍なのか」 「…、…」 「そういえば向こうで山火事があったな。…お前が燃やしたのか?」 「…………」 問いただすように聞けば、こくりと戸惑いがちに首が縦に動いた。 「あのなあ、緑を無駄にするんじゃありませんってこの間言っただろ? なんで守らないんだよ」 「……っ!」 違うのこれには訳がと小太郎が首を降ったが駄目だ、そんなんじゃ誠意が伝わらないぞ! 山ひとつ燃えれば、それだけ生き物がいきていくための資源が減るってことだ。 食べていく為の山菜も治す為の薬草も、そこに棲んでいた動物たちだっていなくなるんだから。 「あのな、俺は忍の事情なんて知らないけど、忍は森を燃やしてもいいって規則でもあるのか?」 「!」 ちがうちがうと首がもげんばかりに小太郎が首をふった。 悪いが一般市民にもわかる言葉で言ってくれ! 「はあ? 証拠隠滅? 俺にも理解できる言葉で」 「……、」 「そいつらを殺したことに…? 二人を殺さなくちゃいけなかったのか?」 「…」 そうだと小太郎は首を縦に振った。 うん、とりあえずそこの二匹は死体じゃないだろうな? 「…!」 ぶんぶんと首を振られた。どうやら生きているらしい。俺も安心だ。 「…ならんなとこ突っ立ってねーで、こっち来いよ」 「、…」 「そいつら介抱してやる。お前のことは伏せてやるから」 「……!」 ありがたいと表情では言っているが、小太郎のことは伏せると言った瞬間首がもげた。 間違えた、もげそうだった。音速で首を振る小太郎は面白いが正直怖い。 「え? 伏せなくていいのか。じゃあなんで俺んとこ来たんだ?」 「……」 「頼れるのは俺だけだって? 嬉しいこと言ってくれるなあ、お前は」 でも北条にはそんなに頼れる人がいないのか? それはそれで不安だ。 北条の主は人の良い方だとは聞いているが、そういえば仲間についてはとんと聞いたことがない。 ひょっとして仲間外れにされていたりするんだろうか……心配だ。 「でも俺にばっか構ってないで、好きな奴とかにも構ってやれよ〜?」 突然どすっと音がして何かと思えば小太郎の腕から二人が落ちた音だった。 …って! そいつら怪我人だろ! しかも片方は女の子じゃないか! しかもなんか可愛い! 「女の子には優しくするものだぞ」 そんな風に地面に落としていいのは軟派男と変態だけだ。 「…ッ」 「え? なに? 違う? …って、なにが」 え? まさかこの子男とかそういう……随分な美男子もいるもんだなぁ。 あれえ、でも男にしちゃ大分際どい服を着ているというか、この子すげえ露出だ!! は、破廉恥な… 小太郎ってば変なところ掴んでないだろうなぁ。 「…!」 その考えは小太郎の首が再びもげんばかりに振られたことにより消去された。 良かった。どっちの否定だかわからないけど。男だったら泣いてたし小太郎が変なとこ触ってても泣いてた。 「ん? じゃあさっきの否定は何のこと?」 「……! …、…」 あわあわと赤くなったり青くなったり、面白いやつだなぁ、小太郎は。