朝を告げる小鳥の囀りはない。爽やかな朝日も差し込まない。 教団の奥深くにあるこの部屋に、時間を教えてくれるモノは時計だけだ。 「ティキ。朝だよ」 「ん……あさ……?」 「そう、朝だよ」 「はよ……」 「オハヨウ」 ジジジジ。ゴーレムの音が煩い。 「今日はなにがあるんだ……?」 「今日は行動の記録だけだよ。俺も任務はない」 「本当?」 「うん。だから今日はいっぱい話そう?」 「の話は、面白いから好きだよ」 ティキ。アレンに殺されたティキを、俺は持ち帰った。 レロはクロスとの戦闘の後、何時の間にかいなかったから戻ったんだろう。 上層部はティキを閉じ込めた。教団の奥深く、ほぼ最下層に近いココに。 監視は数えきれない。外には門番に兵士を。内にはたくさんのゴーレムを。 「なにが聞きたい?」 「……じゃあ、俺の話がいいな」 「ティキの?」 「昔の、俺。知り合いだったんだろ?」 「まぁね」 「知ってることだけで、いいから」 俺もティキを助けたとして別に閉じ込められた。 ティキほどではないが多くの監視がつき、尋問もされた。 そして俺の調べが大方終わった頃、昏睡していたティキが目覚めた。 そこで状況が大きく変わった。 「うーん、お調子者だったけど」 「けど?」 「変なトコもあったよ」 「変……だったのか。俺って」 「遊びが好きだった。ポーカーとか。でもイカサマは下手だったな」 目覚めたティキは、記憶喪失だった。 最初は上も演技かと疑ったが、あまりの脅えように痺れを切らしたのか、俺を呼んだ。 イノセンスで吐かせるためだった。結果ティキは、真っ白だった。 なにもかもを、忘れていた。黒い部分も、白い部分も。 「イカサマ? 俺、イカサマなんてしてたの?」 「クロウリー……仲間がカモられた」 「俺、下手なのに?」 「あいつはずっと城に閉じこもってたから」 「城……」 だから今は共の部屋に押し込められている。 いつか思い出したときに、隠さないようにと。 「吸血鬼なんだ。お前も襲われるかもね?」 「え!」 「冗談だよ。エクソシストなんだ、ソイツもね」 「ふ、うん……で、続きは?」 「うん、そのあとアレン……前に会っただろ、白髪のオトコノコ」 「あー、あの爺さんみたいな」 「そうそう。アイツがカモり返して、素っ裸にした」 「素っ裸!?」 今、俺は「ノアを助けたエクソシスト」として評判が酷いコトになっている。 別に構わない。ティキがいれば、もうそれでイイと思う。 ティキとはほぼ24時間共にいる。 そしてわかったコトは、昔のティキはもういないっていうコト。 記憶が戻る可能性は、かなり低い。 「まぁ正確には、パンツ一枚だけどねー」 「パ、パンツいちまい……」 「……な、ティキ」 「うん?」 「別に無理に思い出さなくてもイイんだよ」 「……なんで。だって、思いださなきゃ駄目なんだろ?」 「そうだけど。そう急くことはないよ。時間はいっぱいあるでしょ?」 ティキは、かなり素直になった。 俺に迷惑をかけているとでも思っているんだと思う。 一分一秒でも早く記憶を取り戻そうと、躍起になっている。 「駄目だ、そんなんじゃ。早く思い出さないと」 「……ティキ」 * 人間化/本部襲撃前