」

呼びかければ、すぐに振り返る。
笑顔を見せてくれる。
でもあの声で、俺を呼んでくれない。

「今日は何がしたい?」

喉に巻かれた白い包帯。
千年公が、つけた傷。
正確にはレイヤ自身が、つけた傷。

「……そうか、腹が空いたか。じゃあ食べよう」

のイノセンスを破壊すると言ったのは、千年公だった。
そしてその言葉を、はすんなりと受け取った。
は覚悟はしていたと言っていた。
そしては、永遠に消えない傷跡を願った。

「なにが食べたい?」

醜い、傷。綺麗なには似付かない、醜い醜い。
千年公は躊躇した。のイノセンスを壊すことを、喉を潰すことを。
けれどは自ら言った。壊してくれと命令した。
の言葉には、誰も断れなかった。千年公すらも抗えなかった。

「……久々に、俺が作ろうか?」

ティキ。ティッキィ。
レイヤが何と俺を呼んでいたかも、いつか思い出せなくなりそうで怖い。
口調が、声が、あの笑顔が。どんどん、薄れていく。

「うん……お前の好きなハンバーグ、作る、から……」

が俺の頬に手を寄せる。心配してくれているのか。
覗きこんでくる顔をゆっくりと抱きよせれば、そろそろと腕が背中を回る。

「……」

ミシミシと音が鳴るんじゃないかと思う程に強く抱きしめる。
は、嫌がらない。ただ緩く背中に腕を回すだけ。

「ぅ、ぁ゛……っ」

強く強く抱き締めて潰れた呻き声を聞いて、こんな声だったなと安堵するのだ。
自分でも“病んでいる”と思う。
はどう思っているんだろう? 
意思疎通が出来ないことがこんなにも辛かっただなんて。

「……めん……ごめんな、……」
「ぃ……」

いっそ、今からでもに英語を書けるようになってもらおうか。
いいやそれよりも、俺が日本語を覚えた方が早い?
日本語は難しいと聞いてるから、少し嫌だ。
でもレイヤと意思疎通ができるようになるのなら、それもいいかもしれない。

「……なあ、。俺、日本語、読めるようになるから」
「……?」
「だから、も……日本語、忘れないでくれ、な」

虚ろな瞳は俺を映しているけど、俺を映してはいない。

「……、ぅ゛」
「…………わかってる」

無理な足掻きだってことは、わかってるんだ。
俺が日本語を覚えても。が英語を覚えても。

「……?」

がパクパクと口を動かしている。
喉が潰れてからはいつもそうだったが、いつもよりも、だ。
そう、なにかを言いたいかの、よう に

「な、ん……だ?」
「……、ぃ゛……、」
「……い……?」
「、い゛……ッ! っ、――ッ」
「!」

レイヤが咳き込んだ。レイヤが、苦しそうに喘ぐ。
それでもレイヤは口を動かすことをやめない

「……き゛……」
「え……?」
「ぃ、き゛……っ」
「――!」



      テ    ィ    キ



「お、まえ……」
「き゛……てぃ゛……ィイ゛ッ」
「い……いい――いい、から もう、」
「ぃ……」
「いい、わかった、もういい! だから、もうっ」
「ッ――ぃ……き゛、」







「―― ……」






















は、昔のように 綺麗な笑顔で笑っていた。