千年公も切羽詰まっている。 教団側に方舟も卵も盗られ、焦っているんだろう。 「のイノセンスを、壊させてもらいマス」 いつかそう言われること予想していたし、そろそろ限界だろうと思っていた。 だからそれについては覚悟していたし、拒否するつもりもなかった。 「な……っ!?」 ありがとう、ティキ。ありがとう、ロード。 驚いてくれてるんだね、俺の為に。 でも俺は、驚かないよ。 「わかってる」 「……やけに素直なんですネ?」 「だって俺は、ティキと、ロードと、千年公と……みんなと一緒に、いたい」 イノセンスなんて、いらない。 もうどうでもいいんだ。みんなと一緒にいられるならば。 「……」 「そんな顔しないで、ティキ」 「せ……千年公ぉ」 「なんですカ? ロード」 「のイノセンスを壊すって、それって……それって」 そうだね、ロード。俺のイノセンスを破壊する――。 それの意味することは。つまり。 「喉を潰すしか、ないでしょ?」 「……!」 「イイんだよ。ティキ、ロード。俺はみんなと一緒にいられるのなら」 「でもっ」 ありがとう。優しいね、二人とも。 俺いま、すっごい嬉しいよ。ティキ。ロード。 「さぁ千年公。潰して」 「……本当にイイんですネ?」 「勿論。元より覚悟は出来ていたんだから」 二人が俺を呼ぶ。やめて、止めないで。俺の覚悟を揺らさないで。 お願いだから俺を揺さぶらないで。俺の覚悟を、弱らせないで。 俺に何も、言わせないで。 「ティキ。ロード」 「!」 「、僕……」 「――俺の声、忘れないでね?」 さぁほら千年伯爵。 戸惑わず間違えず、俺の喉を潰して? しっかり狙って、ね? 「でももうイイんだ。二人とも、少し"黙ってて"?」 「……ぁ!」 「っ」 こうやってイノセンスを使うことも、なくなっちゃうのかぁ。 なんだか、哀しい、ね。 「千年公」 「はイ」 「勢い余って、殺さナイようにしてね?」 「勿論でス。君は二人のお気に入りなんですカラ」 「……うん」 でも、ちょっとだけ、今死んでもイイなんて、思ってたりして、ね。 「さあ――千年公」 「わかってマス、わかってマス、かラ」 ……千年公。ねぇ、千年公? 千年公は本当に嘘が苦手だね。 涙が隠せてナイよ。涙が堪え切れてナイよ。 優しい優しい千年公。 なら俺は最後の発動をアナタにあげるから。 「"イノセンスを潰して"」 そして俺にチョーダイ? 永遠に消えない、醜い ――傷跡を。