ある晴れた日のこと。

「い……いべええええええええええええええええるううううううううううううううううううううううッッッ!!」

雲一つない晴天の空に、一人の青年の声が木霊した。
























「てめこのやろっ、なんてことしやがる!」
「あ?」
「知らないとは言わせねーぞ、こんなことすんのはお前だけだっ」
「知るかよンなこと」
「はァ!? お前しかいねーだろ!」
「つか何のことか言えよお前は」
「……あ」

ローランサンは、イヴェールにそう言われ、思い出したように声を上げた。
そのローランサンを見たイヴェールは、呆れて目線を元の場所、本へと落とした。
彼にとって、ローランサンのボケは今更らしい。

「ちょ、イヴェール! 話を聞け!」
「……なんだよ」
「あのだな、俺が言いたいのは……」
「あ、いけねもうこんな時間だ」
「てめええええ話を聞けえええええええ!!」
「なんだようるせーな。何の用だ」
「お前だろ!」
「だから何が」
「俺の……俺の……」

「俺の大事に育ててる花を荒らしたのは!!」

「……はァ?」

イヴェールは呆れたように――否、呆れて言った。
その顔は、初対面でも良く解るほどに知るかよ、死んでしまえ、と物語っていた。

「誰がンなことするかよ。花だって生きてるんだぞ」
「ンなこと知ってるわ! 俺が育ててんだから! お前俺の趣味ウザがってたろーが!」
「そんくらいで花荒らすかぁああああッ! 俺はずっと此処で本読んでただろ」
「はあ!? お前だろ荒らしたの!」
「知るか! なんで俺の所為なんだよ!」
「お前しかいないっつってんだろ!?」

二人の大きな罵声は三軒先の家まで届き大変近所迷惑だったが、
近隣の住民は日常茶飯事なので、幸い(?)誰も苦情を言いには来なかった……。
――そして、その口喧嘩が何時の間にか殴り合いになり、
そろそろ近所の住人も心配になってきた頃。
その声は、二人の大きな声に負けない程に良く響いた。

「うにゃー」

「……」
「……」

「ね……こ?」

白い、雌猫。
その猫のオッドアイが妖しく輝いていて――

「猫が俺達の喧嘩止めるだあ!? 何様のつもりだテメェ!」

輝いて……いたが。
ローランサンは怯える様子などなく、
むしろローランサンは猫を追っ払おうと叩こうとした。
が、ひょい、とローランサンが叩く前にイヴェールが抱き上げた。

「シャトに何すんだっ」
「しゃ……しゃと?」
「なんだよ、可愛いだろ。シャト。この紫と青の瞳が綺麗でなー……」
「シャトって……お前ネーミングセンスねーな……」
「うるせーよっ! 花に名前付けるお前よりはマシだ」
「それこそうるせーよ! つか花、お前花の責任取れええええええ!」

「みゃあ」
「おー悪いなシャト、サンが煩くて。こいつ馬鹿だから簡便してやってくれなー」

「あんだと!?」
「なんだよ、馬鹿だろ実際。違うか? お前この本読んで理解できるか?」
「ぐっ」

イヴェールは先ほどまで読んでいた本を持ち上げ、ローランサンに見せる。
彼の脳では、理解どころか読破すらできないのだろう……
ローランサンもそれをわかっているのか、軽く呻き声を上げた。

「うぐぐ……か、関係ないだろ! そんなん盗賊の仕事に役立つのかよ!」
「へえ。お前は俺の知識が盗みに役立ったことがないと?」
「う……」

イヴェールの知識は、実際は役に立っていた。
盗みに入る際の防犯システムの仕組み、防犯システムの解除方法、
防犯システムを抜ける方法、見つかった場合の対処方法……
イヴェールの様々な知識とローランサンの知識を織り交ぜて、今まで盗みを成功させてきたのだ。

「お、俺の知識だって役に立ってきたろうが」
「大して足しにもなってないだろうが、それも。主に俺の知識だろ」
「うう……そ、それでも俺の花を荒らしたことは許さん……」
「だから知らないって言って……あ、シャト!」

りん、

「……にゃあ」

シャトはイヴェールの腕をすり抜け、
一度振り向いてから外へと出て行った。

「……シャト……」
「ちょ、その寂しい〜みたいな声やめてくんね、キモい!」
「あ? 誰がンな声出したよ!」
「お前今此処で出したろーが!」
「知るか!」

またギャアギャアと喧嘩が始まり、彼らの日常が戻る。
誰も介入しない、二人だけの世界――。









後日――
とある雲一つない晴天の空に、一人の青年の声が木霊した。

「ちょ……ぎゃあああああああああ!! 猫が、猫が俺のエリザベスをおおおおおお!!」

ローランサンだった。
エリザベスと叫びながら、植物に話しかけている。
そして、イヴェールはローランサンの植物を荒らした猫に近寄り、優しく抱き上げる。

「シャト! おー、汚れたなぁ……よしよし、拭いてやるからあっち行こうな」
「ちょ……イヴェールさん? 謝りもしないんですかー。ふつー飼い主が謝るんじゃないんですかー!」

イヴェールのまるで空気と言わんばかりの無視ぶりに、
流石のローランサンも気になったのか話しかけるが、無視される。
イヴェールはシャトに夢中だった……。

「ちょ……イヴェール? イヴェール! イヴェールー? おま……酷くねコレ! 酷くね!?」

イヴェールの彼の扱いは、猫以下だった――。



ローランサンは多分園芸とか趣味。多分知識系は頭悪い。