お前の飯は相も変わらず美味いなぁ、と白米をかきこめば、佐助は嬉しそうに笑った。愛い奴めと心中思いつつ頭を撫ぜて、「佐助」と声をかければまた嬉しそうにこちらを向いた。「なぁに、」いいやなんでもないと言えば不満そうに、けれども満足そうに佐助は俯いた。怒ったのかと私が惚けて聞けば佐助はそんなはずがないとかぶりを振った。なんとかわゆい奴なのだろうか。私は胸に浮かぶ想いを佐助に伝えた。さすると佐助は頬を赤く染めて「ばか」と言った。
うむ、幸せだ。「…なにしてんの?」 「日記書いてる」 やあ佐助、今日も可愛いな。だがなんだこの腕は。 おいたをするものじゃない。 「残念」 「人の日記を読もうとするだなんて、良い趣味持ってるな」 「だろ?」 絶対に見せるものか、こんなもの。いざとなったら燃やす。 こんなもの人に見られたら俺死んじゃう。つーか俺の立場なくなる。 「見せてよ」 「絶っっっっ対に嫌だ」 「どうして」 どうしてってお前そりゃ見せられないからに決まってんだろハニー。 妄想しやがってきめぇんだよクズがとか佐助に言われたら死ぬ。 「見せるものじゃないだろ」 「いいじゃん別に」 「秘め事とか書いてたらどうすんだ」 「書いてんの?」 「…」 どうしたら諦めてくれんだこの忍は…。 気の短いようで長いやつだから諦めてそうもない。俺が諦めるべきなのか。 …いや駄目だ! 佐助にだけは絶対に見せてはいけない!! 此処で佐助に嫌われて佐助の手料理を食べられなくなるのだけは勘弁していただきたい。 「とにかく駄目だ」 諦めてくれと願いを込めてそう言うばふうん、と佐助はどこかへ行ってしまった。 なんだ、意外とあっさりだな。うんうん、いい子だ。 *-*-*
今日は何故か佐助の手料理が豪勢だった。何故かと尋ねても佐助は教えてはくれなかった。ただ、何故か佐助はずっと顔が赤かった。風邪でもひいたんじゃないかと言ったが、「そんなことはない」と言って聞かなかった。仕方がないからそのまま気にしないようにし飯を食べたが、佐助の顔は赤いままで気になって仕方がなく、何度も佐助に風邪ではないのかと尋ねた。余りにも聞いてしまったので佐助に嫌われてしまったかもしれぬという不安か残っただけで、佐助の返答は変わらなかった。
「…うーん」 なんか、気になるなぁ。佐助。 本当に風邪ではないんだろうか。ひょっとして強がっているだけなのでは…。 そうだとしたら俺はそんなにも頼りない男なのか。ちょっと寂しい。 あれ、でもなんで風邪ひいてご飯が豪勢になるの? 「佐助はわからないなぁ」 「俺様がなんだって?」 「うおっ!?」 ひょいと突然肩口から佐助。び、びっくりした。 驚かさないでくれ、心臓から口が出るかと思った。ん? 「お前はいつも俺をドキドキさせてるよな…」 「そう?」 「そう。そんだけ俺が佐助大好きってことー」 「ありがと、俺様ものこと大好きだよ」 「…うん?」 今佐助なんて言ったんだろう、俺の幻聴か。そうか。都合の良い耳だ。 「はさあ、いつも俺様の言うこと、聞いてないよね」 「佐助の言葉は一字一句逃さないように聞いてるつもりだけど」 「嘘吐き。いっつも聞いてない癖にさ」 「……そんなに聞いてないのか?」 「めっちゃ聞いてないよ」 「…そうか」 そうだったのか…。いかん、それは勿体ないぞ。 佐助の素敵ボイスを聞き逃しているとは…!!!! 「ごめんな」 「……謝るくらいなら俺様の言葉をちゃんと聞いてよ」 「うん、なんでも言ってくれ」 佐助の言うことならなんでも聞くぞ、たとえ火の中水の中だ。 苦手な暗殺だって頑張れるかもしれない。どんだけ佐助好きなんだ俺。キモいぞ。 「じゃあ、お酒飲もう」 「酒?」 「そう。俺様が酌する、が呑む」 「なんか漢字が」 「気の所為だよ。ね、今夜、どう?」 「え、」 記憶する限り対した仕事が入ってるわけではないはずだ。 けど…けど……、夜…だと……? は、破廉恥! 俺のはれんち! そういう邪なこと考えるなばか! 「べ、つにいいけど」 「じゃあ決まり! 今夜の部屋に行くから、待ってて」 「え、ちょ…佐助!」 引き留める前に佐助は一瞬で消えてしまった。 佐助は早過ぎて動きが見えない。そんな俺は忍完全失格。でも佐助が優秀すぎるんだと思う。 *-*-*
佐助が風邪をひいてしまったのでは、と悩んでいたら何故か佐助に酒飲みに誘われた。私を酒飲みに誘う前の佐助はたいそう愛らしく素晴らしかったが、その場面は敢えて記さないことにした。何故突然酒飲みなのかなど色々と浮かぶ疑問を尋ねる前に佐助は瞬時に消え去ってしまい、佐助の残り香だけが部屋に残った。よくわからなかったが、仕方がなく私はそのまま薬などを調合し時を過ごすことにした。佐助は「今夜」とは言ったが、とくに時間の指定はしなかったのだ。ということは何時佐助が部屋に訪ねるやもわからぬ。突然佐助が入り私は未だ仕事終わらずでは情けなさ過ぎる。どうせさしたる事など私には回ってこないのだ、特に私が何をして過ごそうと周囲は構いもしなかった。少し複雑である。
…これ書いてたら佐助に見られるんじゃね? や、やめだやめ! 日記なんていつでも書けるじゃないか。 佐助に見つからないような場所に隠し…佐助がわからない場所ってなんだ。 そもそも佐助に見つからない物ってあるのか。わからない。 とりあえずいつもの場所でいいか。うん、さすがに覗かないだろうし。 ごそごそと日記を仕舞い込んだ直後、タイミングを見計らったかのように声がした。 「、入ってもいい…?」 「うえっあっああ! い、いつでも入っていいぞ!」 「失礼するよ。…なに緊張してんの?」 「え、あ、いや、」 別に緊張なんて…ごにょごにょ。 し、仕方ないだろ、こんな時間に佐助を見ることだってあんまりないし…! しかもなんだよその格好! ラフなのかよ! 脱がしやすそうだな!! 信頼されてると思えばいいのか警戒されてないと思えばいいのか複雑だよ! 「さ、佐助のそういう格好、初めて見るなぁって」 「そう? まあ、そうだね。あんまり会わないよね」 俺様普段は旦那の天井にいるからさ、でもの寝着も初めて見るよね、 ああああああああああ頑張れ俺! 頑張れ俺の理性! つーか幸村超羨ましいなオイ! 「なんかこういう格好したのも久々なんだけどね」 「え、そうなのか」 「だって警備してるのに楽な格好は駄目でしょ」 「あ、そうか…」 じゃ…じゃあラフ佐助って貴重なんだなあはははは、と笑いかけてから、なんか変態っぽい気がした。 あ、あんまり佐助が深読みしませんように! 「らふ?」 「あ、はは、楽な格好ってこと」 「って本当、南蛮語好きだよね」 「いやあ」 別に好きってわけなんじゃないけど、生まれついてから英語が傍にあったからなぁ。 染み付いたものだから、こればかりはどうしようもなかった。 いや、佐助が嫌だやめてくれって言えばいつでも忘れる気満々だけど。 「まあいいや、ほら、飲もう」 「あ、…うん」 ひょいと妙に立派な盃を渡されて、不意にあービールが飲みてえと思った。 元は高校生だからちゃんと飲んだことなんてなかったけど。 小さい頃に親父が泡を飲ませてくれたことを思い出した。 大人になったら真っ先に親父と飲みたかったのになぁ、なんて久々の感傷。 「ありがと。佐助も、」 「あ、俺様はいいの」 「え?」 「が飲んで」 でも、と言っても佐助は聞かなかった。 もしかしたら俺の知らない決まりでもあるのかもしれなかった。 仕方ない、俺が飲もう。あんま酒は好きじゃないけど。我慢してぐいっと。 「美味しい?」 「勿論、佐助が酌してくれてんだから、」 「じゃあもう一杯」 すっと酒を差し出されて、えええ交代に飲むとかじゃないのかよ! なんて思いつつ素直に盃を差し出した。 素面vs酔っ払いの勝敗なんてわかりきってる。 「なあ、佐助は、」 「いいからいいから」 またぐいっと喉へ流し込んだ。ちょっとキツイ。日本酒って怖い。 「いや…あの…」 「ほら、次」 無理矢理に注がれる。溢れんばかりに注がれては口をつけるしかなかった。 「いやあのさ、さす」 「次、次〜」 いやもうやめて! 俺さっきから一気飲み! これ日本酒! いくら盃に入る量が少ないからって俺酒弱いんだぞ! 「だ、だから佐助…」 「ほーらぐいっと飲んでよ、」 「お…俺、実は酒はちょっと」 「俺様の酒が飲めないって?」 「いや、…うー」 そんなことを言われては飲むしかなかった。なにこれ、佐助は俺を潰す気なの? 俺が気持ち悪いならわざわざ酒で潰さなくても正面から言ってくれれば…! いや、むしろ酒で潰すほど佐助にとって俺って邪魔な存在? 「ほら、次」 しかも手の込んだことで、この盃は飲み干さないと床には置けないものだった。 わ、わざわざ可杯まで用意するとは…! 「あ、の、さす」 「そろそろ酔ってきた?」 「う、ん、あの、俺、酒は、あんま、り、」 「もっと飲んで」 「え、ええええ?」 ま だ 飲 ま せ る の か 佐助は一体俺をどこまで潰す気なんだ。前後不覚か。最終形態か。 「う…」 「?」 「ご、ごめん、あの、俺もう…」 「もう? もう少し飲めるでしょ」 「む、むりぃ、だって…ぇ」 これ以上お酒は入りません勘弁して下さい 「さすけぇ」 「…、なに?」 「ごめん、なぁ」 「…なにが…?」 「せっかく、…すけがさけ……そって、…れたのに…」 「いいのいいの、俺様が呑ませてるんだし」 「うん…それで…」 さすけはいったいおれをのませてどうするの、 ああ、呂律が回らない。なんだか一気に酒が回り出した気がする。 「……だってさぁ、がなんもしないから」 「、んもって…?」 「だって俺様のこと好きなんでしょ?」 「おー、だいすきだぞー…」 ああもう、酒に乗ってなに言ってんだ、俺は。 普段は佐助が気持ち悪がっても冗談ですんだってこの場では済まされない場合だってあるんだぞ! かと思えば逆に酒の場でなら許されたり、酒は恐ろしいものだ! 「…さすけぇ…」 「な…なに」 「きもちわるい…」 「っえ、ええ!? ちょ、ちょっと、吐かないでよね!」 「ううう」 「ちょっとー!」 だ、駄目だ、なんか意識やばい。やばい。ぐるぐるする。視界薄い。これ佐助の顔? ああ、この綺麗なあかは佐助かなあ、それとも幻覚かなあ、 …もうだめ 「もー!」