「冥府へ、ようこそ」 気付いたら薄暗く寒い場所に来ていた。 ああそうだ、俺死んだんだ。 突然何か大きなものがやってきて、目の前が真っ赤になって、 「…死神にしちゃ随分と馴染みのある形してるんだな」 死神は人間と何一つ変わらない造形をしていた。 蒼白い顔、真っ黒い服、真っ黒い髪。 一般的な死神のように鎌は持っていないし、顔も髑髏ではない。 「天に昇るか、地へ堕ちるか」 「…選ばせてくれんのか?」 「人とは愚かだ」 「あんたとは話が合わないな」 そもそも俺の話聞いてるか? 「善き者も…悪しき者も」 「…」 「みな、女神の掌の上だというのに」 死神は静かに暗い天を仰いだ。つられて俺も見上げて、後悔する。 そこには憎悪しかなかった。苦しみに喘ぐ顔。恐怖に染まる顔。 薄暗く照らされた天には、恐ろしい形相が消えては現れを繰り返していた。 「それでも尚、醜く足掻き続ける」 「…あれ、は」 「醜き者のなれ涯。冥府の塵屑――訪れることのない朝日を焦がう者」 「ごみくず…」 元は人間、だったのだろうか。 「いつか訪れることを信じて止まない愚かな亡者」 …つまり、あれが所謂地獄ってやつなのか? あんなところにずっと囚われるだなんて、死んだってごめんだ。 もう死んでるけど。 「俺は…どっちに転ぶんだ」 「往くも往かぬも女神次第。我らに意志などない」 「それじゃさっさと言ってくれ」 手に汗握ってどっちだどっちだ焦るのは嫌いだ。 結果がわかりきっているというのに、どうして焦らされる必要がある? 「女神サマってのは、俺がどっちに行くって?」 「――母よ」 「さあ、亡者はどちらへ往くのか?」 「…はい?」
バカシリアスに見せかけたただのバカです。 サンホラは地平線ごとに意見が違ってるくらいがいい。 違うのにでもどっか通じ合ってる、そんなサンホラが大好きだ。