「……ってさ」
「うん?」
「よく、口に手を持っていく、よね」
「え? そうかい?」

……確かに言われてみれば、そうなのかもしれない。
現に今、実は口元に手があったりして。

「この間ね」
「うん」
「ヴィオが、持ってきた物語で」
「うん」
「よく口元に手を持っていく人は、」
「うん」

少し、沈黙。
なんだい、気になるじゃないか。
言う。沈黙。
一拍。口が開かれる。

「子供のころ、親に愛情を目一杯感じてない人なんだ、って」

ぽかん。口が、馬鹿みたいに開く。

「そう、」

口が開いて、一拍。

「……なのかい?」
「は、……親、に」
「……そうだね。確かに、愛情は受けてない」

そもそも父も母も、存在していなかったのだから。

「……、」
「そんな顔しないで、イヴェール」
「ごめんなさい」
「謝らないで。私は別に親なんて気にしてないんだ」
「え……?」
「今こうして君と存在しているという事実だけで、十分だから」

目を見開いて、イヴェールがこちらをじっと見つめる。
ゆっくりと微笑んで返せば、彼はくしゃりと泣きそうな顔をして、言った。

「イヴェール?」
「……イヴェ」
「え?」
「イヴェールじゃなくて、イヴェって呼んで。」
「……イヴェ……?」
「うん」
「どうして?」

彼は目を泳がせた。
きっとどう言えばいいのか、迷っているのだろう。
彼は考える前に、行動してしまうから。

「……だって、さみしい」
「寂しい?」
「、小さい頃に愛を受けてないなら。僕が愛をあげる」
「え……?」
「の親の分まで、僕の愛をあげる」
「……イ、イヴェー……」
「イヴェ」
「……イヴェ。別に私は、寂しいなんて考えたこと」
「でも」

あぁイヴェール、君は優しい子だね。
私のために、私に愛を捧げてくれようとしてくれた。

「いいんだよ、イヴェ。ありがとう。嬉しい。……けど、寂しくはないから」
「……本当に?」
「もちろん。だって……」





親の愛情はいらない。
でも、





「イヴェが、一緒にいてくれるんだろう?」





君の愛情なら、






よく考えたら愚者ってイヴェのことイヴェールって呼んでるなって。 ということで、イヴェ呼びへと昇格、 やっとのことで進展です。