「おはよう、イヴェール」
「……あ……、」
「私がわかるかい」
「うん。だ」
「おはよう、イヴェール」
「おはよう、」

君は頭にたくさんの花弁を散らしたまま笑う。
その花弁があまりにも君に似合っていて、少し見惚れてしまう。

「……このお花は?」
「みんなが少しずつ、お互いの季節の花を持ち寄ったものだよ」
「……、そっか」
「みんなみんな、君の目覚めを待っていた」
「……双子……は?」
「君の目覚めを、知らせに」
「そっか……」

そうやって淡く微笑む君はとても懐かしくて、
思わず頭を撫でた。

「……? なに?」
「いや……懐かしいと、思ってね」
「……ん……僕も、懐かしい」
「さあ、もうお起き。いつまでもその中にいるわけにいかないだろう?」
「うん……」

長い眠りから覚めたばかりなので、まだ足取りが覚束ないだろう。
ふらふらしているイヴェールの手を取って、外へと誘う。

「ありがとう」
「いいや。一人で歩けそうかい?」
「ううん……まだ」
「そう」
「……ごめんね」
「なに、気にすることはない。イヴェールの為ならば」

良かれと思って言ったことだったのだが、
イヴェールの顔が少し暗くなる。
どうしてだろうと顔を覗けば、イヴェールはこちらの瞳をじっと見つめる。

「……イヴェ」
「え?」
「イヴェって呼んで、って……前に言ったでしょ」
「え……」
「それとも忘れちゃった、かな」
「そんなことはない! 覚えているよ」

君にそう言われたときは、どれだけ嬉しかったか。
君はそれを知らないんだろうね。

「イヴェ。この一年……ずっと君の目覚めを、待っていた」
「……ありがとう。」
「さあ、みんなに会いに行こう? 陛下も君を待っている」
「うん」
「あぁそうだ、イヴェール」
「なに?」

イヴェールの入っていた棺から、一輪の花を取り出す。
入れた時は蕾だったけれど、丁度満開だ。

「これを君に」
「薔薇……? 綺麗だね。でも赤い薔薇なら、僕よりも陛下にあげた方がいいんじゃ」
「いいや、君にあげるべきものさ」
「僕に? どうして?」
「私の気持ちだからね」
「……の?」

そう。私の想い。
蕾だって花だって、どちらも私の想いだよ。

「……僕、花言葉わかんない」
「いいよ、わからなくても。受け取ってくれるかい?」
「うん。からの贈り物だもの、受け取るよ」
「ありがとう。嫌だったら、いつでも付き返してくれて構わないから」
「例えどんな意味が籠ってても、付き返さないよ! だって、の気持ちなんでしょ?」
「あぁ」
「じゃあ、平気」
「ありがとう、イヴェ」

君のその優しさに、いつも私は甘えてしまう。
君は優しいから、付き返したりなんかしない。押せばきっと、
嗚呼、なんて醜いんだろう?

「……綺麗な、薔薇だね」
「君にそう言ってもらえたならば、その薔薇も嬉しいだろう」
「、なんかサヴァンみたい」
「あの腐れジジイと一緒にしないで欲しいな。一応、彼も君の為に来ているよ」
「本当? ねぇ、物語はあるかな?」
「あるさ。ないのならもってこさせる。それに、私も持ってきているよ」
「ありがと、」

愛しい愛しい季節。
今年も無事この季節が、廻ってきたね。






「さぁ、イヴェール。冬の天秤。君の季節が、廻ってきた」






※赤い薔薇の花言葉※ 蕾→貴方に尽くします 花→貴方を愛します