奴隷として働かされていたからか、痩せているのに妙に肉付きの良い肌は様々な傷があった。
鞭で打たれたような跡、青痣、蚯蚓腫れ……
見ているだけでこちらも痛くなりそうだった。

「……なんだよ」
「え……あ、……凄い傷だね」
「……長いこと奴隷してたからな」
「ごめん……」
「別に気にしてなんかない。もう終わったことなんだ」
「……そか」

なぁ、エレフ。
お前はいつもはぐらかすけど。一体いつから、奴隷をしていたんだ?
一体どのくらい、お前は扱き使われて、不公平に鞭打たれ、平等を望んだ?
――俺なんて、ただぬくぬくと家で過ごしていたというのに。

「そんな顔するな。気にしてないって言ってるだろ」
「……ん」
「ほら、早く包帯巻いてくれよ」
「あ……うん」

なるべく傷を見ないようにして、エレフの身体に真っ白な包帯を巻いていく。
赤と白のコントラストは、どこか艶やさがあった。

「……くすぐったい」
「あ、ごめん」
「あと、緩い。もう少し強く巻いてくれ」
「……もう少し早く言って欲しかったな。じゃあ巻きなおすぞ」
「あぁ……」

一度解いて、もう一度包帯を巻きなおす。
今度は、エレフに文句を言われないよう少し強く。

「どう?」
「丁度良い」
「そ」

じゃあこのままで、とそのまま巻き続ける。
巻いてる内に、ふとエレフの体を見ると真新しい傷を見つけた。
悪いかなと思いつつも、少しなぞってみる。

「んっ」
「あ……ごめん、痛かったか?」
「痛くは、ない……が」
「くすぐったかった? 悪いな、ちょっと気になって」
「……別に」

そっぽを向かれた。……拗ねられた、かな。
これは何時の傷だろう。
気になるけれど、エレフは答えてくれるだろうか。

「……、」
「……なんだよ」
「え。あ、……いや」
「はぁ? 気になるだろ、言――っでぇ!」
「あ、ごっめーん力加減間違えちゃった☆」
「て、てめっ……」

恨めしそうな目で睨まれた。
でもまぁ、この方がエレフらしくて、なんだか落ち着く。

「……ほい、終わった」
「……」
「あれ。もしかして、怒ってる……か?」
「別に」
「ごめんって。冗談だから」
「あたりまえだ」
「エレフを傷つけるなんて、俺、冗談でしかしない」
「あたりまえだ、馬鹿」
「……うん」

あぁもう、このツンデレめ……。

「お前は黙って俺の世話してればいい」
「うん。そうだな」
「……。寒い」
「あ、ごめん。今着せる」

風邪ひいたら俺の所為にされるし、さっさと服を着せる。
といってもエレフの服は簡単だから、着せやすい。

「はい、終わり。なんか間違えたところある?」
「んぁー……」
「……、もしかして眠い?」
「……ん」
「じゃあ今度は膝枕にする?」

殴られる前になんて、冗談……と言おうとする前に、
エレフは膝に乗ってきた。あれー?

「寝にくい。体制変えろ」
「……はいはい」
「ん」
「……どういう風の吹き回しなんだ?」
「別に。風が気持ち良いから」
「……あぁ、そう」

それって風が気持ち良いと風の吹き回しをかけてるの?
……なんて聞いた日には殺されそうだ。
多分、無自覚に言っただけだろうし。

「なんか歌え」
「え?」
「眠くなるやつ」
「……つまり、子守唄?」
「近い。が、子供扱いはするな馬鹿」
「ごめん。じゃあ……」

……、ここでゆりかごでも歌ったら、エレフはどんな反応を示すのだろうか。
いっそのこと大譜歌とかでも歌ってやろうか。
ナイトメア発動〜みたいな。あれ? 俺なんの話してんの?
まぁいいや。妥当に子守唄でいいだろう、あんまり子守唄とわかんないやつ。

「……♪」
「疲れたら……やめても、いい……から」
「♪」

わかった、という意味を込めて歌い続ける。
エレフは確かに女王気質だけど、優しいところだってあるんだ。

「♪ ……♪」
「……」
「♪」

歌い始めてあまり時間も経たない内にエレフは眠った。
それだけ、疲れていたということなんだろう。
あまり言葉には出さないが、疲れているのも当たり前だ。
遠い昔に生き別れた双子の妹を探してずっと旅するだなんて、ほとんど当てのない旅。
いざとなればレスボスという島に行けと恩師に言われているようだが、
彼はまだレスボスへ向かう予定はない。
いざとなればということは、どうしても見つからなければ……ということだ。
彼は、まだ自力で探し出すつもりでいる。

「……良い夢を見れるといいな、エレフ」

君の可愛い妹の夢を、妹と共に過ごす夢を。
せめて夢の中だけでも、幸せに。






エレフはあまり人の名前を呼ばない感じがします。なぜか。 時間的には、お師匠と別れた後の旅くらい。