「ーーーーッ!!」 「おやイヴェール、ボンjy」 「ーーーッッ!!!」 「ぐはァ……ッ!」 は、血を吐いて押し倒されてそのまま永遠に目を覚まさなかった。 完。 「……って、完結しない! なんだそのふざけた死因!? そんな主人公見たことないわ!」 「…………?」 「え、あ、なんでもないよごめんねイヴェール。どうしたんだいそんなに急いで」 「あ! あの、あのね、双子が……双子が、」 「落ち着いて。双子がどうかしたのかい?」 とりあえず、イヴェールを横抱きにしてソファに座らせる。 紅茶がいいかな、ホットミルクがいいかな……。 やっぱり落ち着かせるのにはホットミルクだな、よし温めよう。 ミルクを温める。イヴェールは猫舌だから、ほどほどに。 「はい、イヴェール。ホットミルク」 「ありがと……」 「ん。……で、どうしたんだい?」 「あの……あのね……」 「うん」 「オルとヴィオが、入れ替わっちゃったんだ……」 間。 「……へぇ、それは大変だね」 「何でそんなに落ち着いてるの……ぐすっ」 「いや……あまり変わらないんじゃないかなぁ、なんて思って」 いや、それは二人に失礼か…… 二人には二人なりの自らの属性への誇りを、持っているだろうし。 「全然違うよ! オルは料理が得意で掃除が苦手だし、ヴィオは料理が苦手で掃除が得意! あと髪型も違うし属性も違う! 属性が違うから頬の紋様も違うし、菫の姫君と紫陽花の姫君だしそれに」 「私が悪かったよ、そうだね、確かに全然違うね」 「でしょう!? 僕は……僕はこれからヴィオに紫陽花の姫君って言わなくちゃいけないの? オルに菫の姫君って言わなくちゃいけないの!?」 オルに掃除してもらって、ヴィオに料理をしてもらわなくちゃいけないの!? そんなの駄目っ、僕死んじゃうよ! なんていうイヴェールに、少し双子の苦手分野の酷さを知りたくなったわけだが、 とりあえず、そんなことを言っているイヴェールの頬の紋様も月の揺り籠のみなんだよ……。 「ところでイヴェール、いや、朝と言うべきかな? 今日目覚めたら、夜の部屋で寝ていなかったかい?」 「え……? な、なんでわかったの?」 「いや……ちょっと。ところで、黄昏は?」 まず双子の調律でもした方が良いのではないかい、と言おうとするが、イヴェールがその前に泣いた。 「それが……何度呼びかけても、返事がないんだ」 「そう……。ところで、君、今日は自分の部屋に行ったかい?」 「え? ううん……双子のことで、混乱してたから。ん……じゃあとりあえず、自分の部屋に行こうかな……」 「いや、君は此処にいなさい」 「え?」 「…………黄昏の連絡があったとき、落ち着いて話せないと嫌だろう」 「わかった……、…………どこか、行くの?」 「ちょっとね」 さぁ、混乱しているであろう夜の冬にでも、会いに行こうかな。 コンコンコン、と三度ノックをする。 ガサリ、と扉の奥で物音がした。 恐らく、ノックに吃驚したのだろうな。朝はノックなんてしないし。 「……、朝? いないのかい」 「ぃ……いるよ! え、えと、入って!」 頑張って朝の演技をしようとしている夜に、思わず笑みが零れる。 可愛い子だな、 「うん。……やぁ、朝。元気かい?」 「うっ……うん……げん、き……だ……ョ……?」 声が裏返っている。あぁ、可愛い子だ。 普段の彼の声はとても低くてとても同一人物の声とは思えなかったのだけれど、こう聞くと、物凄く似ている。 矢張り本人の意志の問題なのだろうか。 「ぐ……あ、や、、は……なにをしに……?」 「うん? 朝に会いに来た、じゃあ……駄目かな?」 「え……っ? あ……駄目、じゃ、ない……けど……その」 思わず笑みが零れそうになるけども、あぁ駄目だ、今笑っちゃ駄目だ。 声はそっくりだけれど、夜のプライドが邪魔するのか、口調はあまり似ていないね。 朝は、そんな戸惑って返事はしないんだよ、夜。 「くす……ごめんね、今のちょっと嘘」 「え?」 「本当は、夜に会いに来たんだ。夜を見なかったかい?」 「え、あ……う、ううん……見てないよ」 少し、頬が赤く染まっている。 照れているのだろうか? いやまさか、ね。 「そっか。そうだ朝、朝食はもう食べた?」 「え? あ……まだだけど」 「そう。じゃあ、夜も食べてないのかな……」 「……そ……そう、なんじゃないの、かな……?」 「うーん、できれば夜と食事をしてみたかったのだけれど……」 「えっ、あ、そ、そうなんだ」 「うん。不思議だね、君と同じ容姿をしているはずなのに、夜はとても綺麗なんだ」 「え、」 「ああ、ごめん。君も綺麗なんだけれど、なんだろう。儚さ……かな。とにかく、何かが違うんだ」 あぁ、耳まで赤くなって。 可愛いね、君は。綺麗なんだか可愛いんだか。 「ねえ朝、夜は私のことをどう思っていると思う……?」 「え!? え、え、あ……えっと、その、う……」 「……朝……? いつもみたいに、『大丈夫』って、言ってくれないのかい?」 「えっ? あ、え、と……大丈夫、だよ。夜は……のこと、きっと、す、好き、……だよ」 「本当かい?」 「う、ん……夜も、なんかそういうこと……言ってた……ような言ってなかったような」 あぁもう、なんて可愛いのだろうか! おかしい、私が好きだったのは確か黄昏のイヴェールで、 夜ではなかったはずだったのだけれど、嗚呼駄目だ浮気はいけない! あれでも私とイヴェールは恋人同士でもないのだから浮気もなくね? とか考えるんじゃない! いくら外見が同じでもいくら可愛くても、所詮元はイヴェールを基調とした分裂! イヴェールじゃないんだからああああああチクショウ可愛いなッッッ!! 「本当かい? それは嬉しいな……」 「な……」 「なんで……そんなに、嬉しそうに笑うんだ……の?」 あぁ馬鹿だね、一瞬口調を間違えそうになってるよ。 ……なん、てね。 呑気にそんなことを思っていられるほど、私は冷静じゃなかった。 そんなに私は嬉しそうな顔をしていたのかな。それは少し注意しないとな。 教え込まれたポーカーフェイスが崩れたと彼の耳に入ったら、私はどんな目に遭うか! 「……なんでと、言われても……な」 「だ、だって、僕と話してるときだって、そんな顔、」 「くす、なんだい、嫉妬?」 「ち、ちが……ッあ、違わない、違わない確かに僕嫉妬してるかも朝嫉妬ぶかーい☆」 あぁどうしよう、夜が壊れたかな。 自分の発言に驚いて必死に取り繕っているんだろうな。 あぁそうだ、こんなことを言ったら…… どうなるんだろう? 「でも朝……君、前にもそうやって聞いて、私から答えを聞いたじゃないか」 「え……ッ!?」 「いくら夜でも、あんな最近のことを忘れるなんて思ってなかったな……」 「え、あ、う、そ……うだっけ!? ごめん忘れてたよ!」 「そう……? その調子じゃあ、私の言ったことも忘れているのかな……」 「そっ、そんなことない! レイヤの言ったことは、一字一句覚え……て……」 さあ、っと夜の顔から血の気が引く。本当は朝の身体だけど。 珍しいもの見たなぁ、夜も朝も、血の気が引くなんて、ないだろうしなー。 なんて呑気なことを思いつつ、夜の様子を見る。 「あ、う……その……」 「本当かい? じゃあ、一字一句間違えずに、読み上げて……あれ、朝、よく一字一句なんて知ってたね?」 「あっ! それは……その、」 夜の目線が、上を見たり下を見たり右を見たり左を見たり。 忙しそうな瞳だな、なんて思いながらも深い深い碧海だったはずの夕焼けの瞳をじっと見つめる。 「ぷっ」 「え……?」 「くすくすくす……そんなに頑張って演技しなくてもいいよ、夜。わかってるから」 「な……って……めェ愚者、騙しやがったのかッ!!」 「いやいや、君があまりにも可愛いから。思わず……ね」 怒りで頬を真っ赤にしている彼も、大変可愛らしかった。 うーん、いけない。そろそろ本気で夜を好きになりそうだ。 私の本命はイヴェールだろう。 私に言い聞かせる。 「でも、さっきまでの話は本当だよ」 「な……っ」 耳まで赤い。 これはもう、本当に可愛いとしか言えなかった。 「君のことは気になってる。一緒に食事だってしたいし、君が私をどう思っているかも、気になってる」 「え……」 「まぁでも、まずはそのことよりも双子と君たちが入れ替わったことからだね」 「……」 夜が一気に萎えたような顔になる。 ……酷いなその顔。なんだコイツ空気読めないのか? って顔をしている……失礼な! 「……そんな顔をしないでおくれよ。だって私は、朝の身体ではなくて、夜の身体で聞きたいんだ……」 「――ッ!? ン、な……っ」 夜の顔が、一気に耳まで真っ赤に染まる。 「だから……それまでその台詞は、とっておいてくれるかい……?」 「か……っ勝手に、言ってろ!」 我ながら臭いなこんな言葉で平気かなと思ったが、どうやら成功らしい。 ……そうか夜は俗に言うツンデレか。 とりあえずヤンデレではなくて良かったと、場違いの安堵。 「うん。言ってる」 「くっ……覚えてろよ……」 「あぁそういえば夜、さっきまでの可愛い声はやめたのかい? 朝の物真似も、中々そそるものが」 「うるせェ!!」 あーもう、耳まで赤くなって。 とりあえず私が今ものすごく彼にときめいているのは、 彼が朝の身体をしているからだと、言い訳。一体誰にだろう。
前編と書いてありつつ、続かない かも