「ねえ、」

「なんだい?」


とある昼下がり


「“あいよくにむせぶ”って、なぁに?」


穏やかで暖かかった空気が、一気に氷点下へと下がった……。
















「……? え、と……僕なんかマズいこと、言った?」

ああ、言ったとも……。

「……Monsieur?」
「え? な、なに? あの……なんか空気黒くない……?」
「気の所為ですわMonsieur」
「それよりもその言葉……どこで聞きましたの……?」
「……え……絵本だよ。これ……」

「……【魔女とラフレンツェ】?」

「う、うん……書庫から引っ張り出してきたんだ。綺麗な絵でしょ?」
「……へえ。中、見てもいいかい?」
「え? うん……」

官能小説(官能絵本?)……というワケではないらしい。
ただの絵本だ。
題名もおかしくはないし、普通の児童書にしか見えな――

「……」
「……?」
「どうしたんですの?」

……いや、いやいやいやいやいや。
え?
なんでこんな展開になるの?
……えええええ?
さっきまで普通に切ない恋愛物語を描いていたじゃないか。
ベタに駆け引きでもして終わるのかと思っていたのに、
……だっ……

「……イヴェール、これを書庫から取ってきたと言ったね?」
「え? う、うん……」
「何処の書庫かな?」
「え……え? ど、どうしたの…………?」
「Monsieur……これはMonsieurの為でもありますの」
「そうですわ……この本の入手先を探さなくては……」
















「此処か……」
「此処は確か、Monsieurへの贈り物の本を入れておく書庫ですわ」
「一応送り主順になっていますから、すぐにわかりますわ」
「苦労して分けた甲斐がありましたわ!」
「けどまさか、こんなことに役立つだなんて!」
「そうだね……思わなかった」

さあ……イヴェールに悪影響を及ぼそうとした犯人は、誰だ……?

「其処に真犯人はいるのかしら――」
「其処に真実はあるのだろうか――」
「其処に真犯人はいるのかしら――」

例の絵本【魔女とラフレンツェ】は、
この書庫の入ってすぐ右の棚の一番上に入っていたそうだ――

「右……の……」
「一番、上……」
「此処は――」

「「「彼の――!」」」














「サヴァン――ッッ!!」
「おや、久しぶりだね。君が話しかけてくるなんて珍しい、やっと私の話相手に――」
「誰がなるかぁぁああああああ!!」
「ぐはァ!」

崩れゆく髭の男 華麗に着地する男
彼は、とても清々しい(ように見えて黒々しい)笑顔で言った――

「いっぺん、噴水廻って来いや?」

嗚呼...この日から一ヶ月は、男の姿を見た者は居ないと言う――









愛欲に咽ぶラフレンツェ 純潔の花を散らして