「あ! !」
「……やあ、イヴェールじゃないか」

私を見かけるなり、彼は走ってよってきた。
……嗚呼、そんなに走ったら、また転んでしまうよ、イヴェール。

どでっ

……転んだ。
可愛い効果音を上げ、転んだ。
予想通り、転んだ。

「いたい……」
「当たり前だろう。君は内股なのだから、人の10倍は気をつけろと、言っただろう?」
「うん……ごめん……でも、がいたから……」

可愛いことを言う天秤だ……本当に……
けど、言っても君には、通じないのだろうね。
きっと、永遠に――

「嬉しいけどね、イヴェール。私の所為で転ばれても困るよ」
「……うん、ごめん」
「ああ、いい子だ。次は転ばないようにしなさい」
「……うん!」

一瞬曇った笑顔も、すぐに煌く笑顔に戻る。
そして、いつものように私が話さなくとも、話を進める。
それらしい物語を見つけだけど違う物語だっただとか、見つけた物語で人助けをしただとか、
主に物語の話を。
そして、その話の中、ふとイヴェールが言った。

「ねえ、今日はなにかあったの?」
「何故だい?」
「だって、いつもより嬉しそうな顔をしてるから」
「……そう、かい?」
「そうだよ」
「……嗚呼、それはきっと、あれだね」
「なになにっ?」
「私の故郷の国王陛下が、この間まで怪我をしていたのだが、つい最近完治してね」
「へ〜……よかったね」
「ああ」

陛下の怪我の原因をこの子に言ったら、なんて顔をするのだろうか?


前転