「ちょっと事情があって……この子の面倒、お願いしてもいいかな?」

「……隠し子……?」





























とある日の昼下がりのこと


「パパ……パパぁ……」

迷子を見つけた。

「どうかしたのかい、お嬢さん?」
「パパがいないの……」
「お父さんが? お父さん、どんな人? 探してあげるよ」
「お兄ちゃんが……? あのね、パパね、胡散臭くてね、仮面でね、マントなの」
「……」

胡散臭くて……
仮面で……
マント……!?
な……なんて胡散臭い父親なんだ……
こんなに可愛い子なのに……
っていうか、それって……もしかして……

「そ、そっかぁ……ええと、お父さんの名前、わかるかな?」
「あびす、っていうの」

嗚呼……アビスか……。
こんなに可愛い娘が居るだなんて、聞いてないぞ……アビス……。

「そう……お兄ちゃん、君のお父さんのこと知ってるよ」
「本当っ?」
「うん。けどね、今お父さんがどこに居るかはわからないから、探さなくちゃいけないんだ」
「うん」
「だから、君に一旦お兄ちゃんの知り合いのところに居てもらって、お兄ちゃんが探してくるよ」
「うん!」

「じゃあ、ちょっとおいで」

















「と、いうことなんだ。断じて隠し子ではないよ」

ニコォ、と笑って言う。
(イヴェールが怯えているのが見えたが、流石に隠し子と勘違いされるのは嫌だ)

「そうなんですの……君、迷子なの……なんてお名前?」
「エル!」

……ああ、そういえば私も名前を聞いていなかった。
エル……エルか。
そういえばアビス、偶にうわ言のようにエル、エル……と言う時があったな……。

「エルちゃん。エルちゃん、何歳?」
「もうすぐ8歳!」
「そっかぁ、8歳かぁ……Monsieur!」
「へっ? な……なに?」
「エルちゃんと遊んであげてくださいな。私たちはお茶とお菓子をもってきますわ」
「あ……うん、わかった。じゃあエル、遊ぼう!」
「うんっ」

……ああ……何故だろう?
エルとイヴェールが同年代に見えるのは……。

「あのね、僕はイヴェール。よろしく、エル!」
「うん! よろしく、イヴェちゃん!」

嗚呼……しかもエルに同格に見られているような……

「イヴェちゃん、あっちのお兄ちゃんは?」
「はね、!」
「お兄ちゃん!」
「……ん? どうかしたのかい?」
「一緒に遊ぼう!」
「……いや、これから君のお父さんを探しにいくよ。じゃあイヴェール、頼んだよ」
「うん」

まあ……良い友人になるだろう……たぶん。




























「彼女こそ……私のエリスなのだr」
「おい、そこの胡っ散臭ぇマント仮面、お前だお前」
「ぐえっ」

頭上へとひとっ飛び、見事アビスに直撃しました!
いやぁ、私の集中力も落ちてないね!

「な……なんだい…………」
「なんだい、じゃないよアビス。君の娘だ」
「エル!? エルがどうしたんだっ!?」
「復帰が早いな親馬鹿か? はぁ……エルが迷子だったから、ウチで預かってるよ」
「な、なに……の家で?」
「いや、私の友人の家だ。中身が同年代の子が居てね。前に話しただろう? 私が物語を求める理由の子だ」
「ああ……」
「と、いうことで。迎えに来てもらおうか」
「勿論だ。今日の仕事はここで終わりにしようか」

仕事を中断してまで迎えにくるとは、
よほど親馬鹿な親だったらしい。
――いや、エルがアビスにとって最愛の愛娘、だからかな。

「あそこへはね、特別な行き方でしか行けないんだ」
「特別?」

「そう、特別――」






















「ほら、アビス! 早くしろ!」
「ちょ……ちょっと、待ってくれ……ぜぇ……ぜぇ……っ」
「なんだい、息切れしてるじゃないか。歳か」
「う……煩いっ……」

息切れし、ふらふらと揺れながら後ろをついて走ってくるアビス。
仮面も少しずれていたり髪も乱れていたり、マントもボロボロ……は元からか。
とにかく、アビスは悲惨な状態だった。
悲惨な状態で、ふらふら、ふらふらと、私の後ろについてきている。

「まったく、そんなんじゃあすぐにエルにパパのお洋服と一緒にお洗濯しないでぇ〜……とか言われるよ」
「なっばっ……エルはそんなこと言いません!」
「いーや、いつか絶対来るね。娘は父親に反抗する時期が必ず来るんだ」
「来ない!」
「いーや来るね。大体君、あの子を一人公園に置いて仕事とかしてる時点でもうアウトだね」
「な……し、仕方がないだろう……仕事なんだから……」
「誰かに預けておくとか、すればいいじゃないか」
「そんな知り合いなんて一人もおらんし」
「寂しい人生送ってるんだな、本当」
「煩い!」

アビスは本当に馬鹿だな……本当。嗚呼、本当に馬鹿だ!

「……もうすぐ……もうすぐ、エルの誕生日なんだ……」
「……そうかい」

だが……
馬鹿は馬鹿なりに、良い親らしい。

「……ほら、此処だ」
「……でかい豪邸だな」
「そう、でかい豪邸さ。まあ……でかいだけだが」
「ふむ……そうなのか」
「ほらアビス、エルの声が聞こえてこないかい?」

「きゃー! イヴェちゃんやめてぇ!」
「逃がさないよ、エル!」
「いやぁ……っ」

「……」
「……」
「……え?」

なんて会話をしているんだいイヴェール……
私はイヴェールを信用してエルを託したというのに……

「……エルの声は聞こえないが……」
「へっ? あ、そう!? そうか、じゃあちょっと……っ今呼んでくるよ待っててくれ!」
「えあ? ちょ……?」



















「きゃ〜やめてぇ〜!」


「イヴェール!」

どんっ
扉が壊れたんじゃないかと思うほどの大きな音と共に中に入る。
肌蹴た服、間から覗く白い足……
中で起こっていたことは――

「あ、おかえり〜」
「ぁっ、お兄ちゃ、ん、おかえっり、なさ……い!」
「……え? あ?」
「エル、覚悟〜!」
「きゃー! にゃ、にゃは、にゃははは、も、もっ……もうむりぃ……! あ、あははははははっっ!!」

イヴェールが、エルのことを擽っていた……。
エルの服装が乱れているのは、擽りに弱いエルが暴れまくったから……なのだろう……。

「……」
「……ふ、ふひゃ、はぁ、はぁ……」
「、エルのお父さん、見つかった?」
「あ……ああ、まあ……下で待ってるよ」
「はぁ……ほん、っと……?」

「ああ、本当だ。ちゃんと、胡散臭くて仮面でマントの父親、連れてきたよ」




























「パパ〜!」
「エル!」
「パパぁ……」
「エル……エル……」

エルが駆け寄り、アビスが力強く抱きしめる。
……良い、親子じゃないか。
仲睦まじい親子。良いものだよ。

「……イヴェール、」
「え?」
「ちゃんとエルの面倒、見てあげたかい?」
「うん」
「そう……偉いね、イヴェール」
「えへへ……」
「今度、ご褒美に取って置きの物語を紹介するよ」
「本当っ!? わーい、やった!」

イヴェールの、眩しいほどの輝く笑顔。
嗚呼……やっぱりこの笑顔を見ると、落ち着くな。

「……」
「ん?」
「エルを見てくれて、ありがとう」
「いいや……私じゃないさ。感謝なら、イヴェールにどうぞ。ほら、こっちの銀髪」
「……イヴェール君、か。ありがとう」
「ううん。僕も、楽しかったから」
「そう……エルも、楽しかったようだ。よければ、これからもエルと遊んでやってくれ」
「うんっ」
「イヴェールは良い子だから、安心してエルを預けるといい。此処には女の子も居るしね」
「そうなのか……」

安心したように、アビスは言った。
……やっぱり、自分の娘には同年代の女の子と遊んで欲しいのだろうか。

「……これからも、よろしく頼むよ。ただし……」
「ただし?」
「イヴェール君にもにも、エルはあげないよ」
「もらわないよ……それじゃあ私はロリコンじゃないか……」
「……? エルは、ものじゃないよ?」
「あー……イヴェールは、まだそういうこともわからない子だから、安心してくれ」
「……そのようだね。安心した」

本当に、本っ当に安心したかのように、今度は珍しく笑顔で言った。
……この野郎、親馬鹿も大概にしやがれ……

「……じゃあ、私たちはこれで」
「じゃあね、イヴェちゃん、お兄ちゃん、オルお姉ちゃん、ヴィオお姉ちゃん!」

「ああ、またね」
「またね、エルー!」
「また一緒にお話しましょうね、エル?」
「また一緒にお話しましょうね、エル!」

……ん?

「って双子! いつの間に居たんだい!?」
「さっきから居ましたわ?」
「そうですわ、さっきから居ましたわ。酷いですわ、」
「酷いですわ」
「……す……すまない。気づけなかったよ……」







双子の機嫌を治すのに、三日ほどかかった。












夢主はイヴェの前以外では偶に口悪いです