「やあ、Monsieur元気かい?」
「Bon soir,Monsieur. ……普通だよ」
「そう。……双子の姫君は、今日も物語探しかい?」
「ああ……そう、だね。二人とも、今は居ないよ」
「そう。……イヴェール、」
「なんだい、。なにか、言いたそうだね」
「……最近……詠い続けていないそうじゃないか……?」
「へえ、よく知っているね? 。うん、そうだよ」

私の言葉に、彼はあっさりと同意した。
もう少し否定するかと思っていたのに、そうもあっさり言われると、拍子抜けだ。
けれど、拍子抜けだろうがなんだろうが、これは、重要なこと。

「……何故だい?」
「何故? 別にいいじゃないか、双子はまだ迷っていないよ」
「彼女達が迷わぬように詠い続けるのが、君の役目ではないのか?」
「そうだけれど、ずっと詠い続けることはないじゃないか。戻るときだけでいい」
「もし彼女達に何かあったらどうするんだ!」
「何も起こっていないじゃないか。詠うのをやめても、双子は元気に物語を探していたよ」
「何かあってからでは、遅いんだぞ!?」

もしも双子の姫君は迷ってしまったら、
君は生まれるどころか、存在すら、消えて――

「そう。君もサヴァンと同じ事を言うんだね、」
「なにを言って――」

「ねえ、。僕が歓びと哀しみを知らないのは、知っているよね」

「え? あ、ああ……」
「それは、僕の歓びと哀しみを双子が持っているからだ。それも知っているよね」
「――そ、れは……」

嗚呼……まさか、

「僕はね、“人”になりたいんだよ。僕が人になるために、なれるように、双子は廻ってくれている」





「けれど、人として大切な感情を、彼女達は僕から奪っているんだ」











「だから僕は、」



















「双子に消えてもらったんだ」














嗚呼、彼が……彼が笑っている――