「Salut,Monsieur Hiver」(やあ、御機嫌よう、イヴェール)!」
「今日も素敵な物語を持ってきたよ」
「本当? の物語はいつも面白いから、楽しみ!」
「そうかい? それは嬉しいよ。では、双子を呼んでいらっしゃい」
「うん! ヴィオレット、オルタンス! が来たー、が来たよー!」

彼はバタバタと走って、どでかい屋敷のどこかにいるであろう、双子の人形を呼ぶ。
普段運動もせず、ずっと屋敷にいるのに、どうしてあんなに走れるのか……。
まあ、彼の姿が仮初のモノだからなのだろうが――

「Salut,Monsieur!」
「Salut,Monsieur!」
「Salut,Mademoiselle. 相変わらず元気にしているようだね」
「勿論ですわ!」
「Monsieurが不健康分を担当しているもの!」
「ふふ、そうだね」
「あ! なんだいそれ、失礼じゃないかい!?」
「あら、本当のことですわ!」
「ですわ!」

ねー、と顔を見合わせて双子は言った。
水色の服を着た、オルタンス。
紫色の服を着た、ヴィオレット。
二人は自分の主人をからかいつつ、私に言った。

「Monsieur, 今日はどうしたんですの?」
「またMonsieur Hiverのために物語を持ってきてくれたんですの?」
「ああ。今日も素敵な物語を持ってきたよ」

先ほどもイヴェールに言った言葉を、双子にも言う。
言えば、双子は明るかった顔を更に明るくし、
バタバタと、けれども挨拶は忘れずに、駆けていった。

「……相変わらずのようだな」
「双子はいつも変わらないよ」
「おや、では君の方は、なにか進展はあったのかい?」
「……それは、残念ながら」
「そう。それは残念だね」

彼は、ある物語を求め、(自分は物語を廻ることができないので)双子の人形に物語を探させている。
その物語を彼が見つけることをできたら、彼は、やっと、生まれることが、できるのだ。
仮初の姿を捨て、新たな物語を、創り上げるために――

「ねえ、。今日はどんな物語なの?」
「それは後のお楽しみだね」
「えー……いいじゃない、双子には内緒で、ね?」

彼は、自分の顔がどんなのかを知らないのか、上目遣いで言った。
(君があまり外を出歩かない子でよかった。こんなの放って置けない)

「……仕方ないな……今日の物語はね……」
「うんうん!」

「「あー!! ずるいですわMonsieur! 先にの物語を聞こうだなんて!」」

「あ」
「……見つかってしまったようだね。残念ながら、皆で仲良く聞くようだよ」
「……むう」
「大体、はmonsieurに甘すぎますわ!」
「それを利用して甘えるMonsieurもMonsieurですわ!」

また双子とイヴェールの可愛い喧嘩が始まった。
そう思い、私はいつものように綺麗な花が咲いているであろう、庭へと一人向かった。
















(あ! がいませんわ!)(また一人で庭に向かったんですわ!)
         (二人の所為じゃないか!)
(なにを言うんですの、Monsieurの所為ですわ!)(そうですわ!)

イヴェールは、双子に弄られてるイメージがある。何故 ……いや、多分友人とのラクガキだな……。